ビックカメラDXの要諦は、クラウドやローコード、APIといった最新技術の徹底活用だ。俊敏さが求められる顧客向け事業と、安定・堅実に運用すべき基幹系システムを共に見直す。ネットとリアルを融合した顧客体験の創出へ、データ基盤の整備にも乗り出した。
「攻めと守り、同時に手を入れる」──。ビックカメラの木村一義社長は、2022年6月13日にぶち上げた「DX宣言」についてこう説明する。攻めは顧客向けのフロントシステム、守りは基幹系などバックエンドのシステムをそれぞれ指す。これらを並行して改革していくという意味だ。
「デジタル戦略が企業経営において重要な位置付けになったのは言うまでもない。5年、10年先を見据えて競争優位を築くには、ローコストでフレキシブル(柔軟)であり、アジャイル(俊敏)にデジタル戦略を実行できる環境を整えるのが非常に大事だ。ここは真っ先に取り組むべきであり、すでに動き始めている」(木村社長)。
「時間とコストがかかりすぎていた」
同社はDX宣言で、米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)と米セールスフォースの各クラウドサービスを全面採用し、システム内製に乗り出すことを明かした。投資額は数十億円を見込む。
「新しいことをやろうにも、時間とコストがかかりすぎていた」。ビックカメラの新規事業を統括する中川景樹取締役常務執行役員経営企画本部副本部長事業開発部長はこう話す。
中川常務は、木村社長が力を注ぐ「新規事業の創出・事業領域の拡大」を担う。これまでビックカメラが家電の販売以外でも稼ぐ力を身に付けるため、いくつもの新規事業を立ち上げてきた。例えば総額100億円規模のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の運営を担当。既にCVCを通じてスタートアップに出資して、カメラレンタルのサブスクリプション(定額課金)型サービスを始めた。
その中川常務は、これまで新たに事業を創出する上で感じていた課題として「システム対応のスピードとコスト」を挙げる。「新規事業は『まずやってみる』というスピード感が大事だ」(同)。