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 データセンターの運用に伴う温暖化ガスの排出量を抑える「データセンター脱炭素」が、国の重要政策の1つになった。菅義偉首相は2021年6月2日に首相官邸で開催した成長戦略会議で「低消費電力のデータセンターの分散配置を行う」と述べた。6月18日に閣議決定した成長戦略実行計画案には、「2030年に全ての新設データセンターの30%省エネ化」と「使用電力の一部の再エネ化」が盛り込まれた。

 成長戦略においてはデータセンター脱炭素は「経済安全保障の観点からのデジタル政策」に位置付けられている。

 現在、日本国内では再生エネ調達が難しいことから、データセンターの再生エネ転換が米国などに比べて遅れている。このままでは日本企業のITシステムやデータが、温暖化ガス排出量削減をトリガーに国外データセンターに流出しかねない。こうした状況は経済安全保障の観点から許容できないため、国としてデータセンターの国内立地を維持し、それに欠かせないデータセンターの省エネ化や再生エネ転換を支援する。

 菅首相が言うデータセンターの分散配置とは、現在は首都圏に集中するデータセンターを地方に分散させることを指す。成長戦略実行計画案は「高性能・低消費電力のデータセンターについて、新たに最大5か所程度の中核拠点と、需要を勘案しながら最大10か所程度の地方拠点の整備を推進し、国内における最適配置を図る」とする。

 なぜ脱炭素のためにデータセンターの分散配置が必要なのか。「データセンターが集中する首都圏では再生エネ調達が難しいからだ」。日本データセンター協会(JDCC)理事を務める東京大学大学院情報理工学系研究科の江崎浩教授はそう指摘する。「これまでも東京は地震リスクが高いとして、国土強靱化を目的としたデータセンターの地方分散に国も取り組んでいたが、使う企業がいなかった。再生エネ調達は、データセンター地方分散の課題を解く鍵になる」(江崎教授)。

 「成長戦略フォローアップ工程表」は、2021年度から経済産業大臣が「地方に分散しているデータセンターを仮想的な巨大クラウドとして一体的に運用する環境の構築」を進めるとする。

 成長戦略の一部で経済産業省などが取りまとめた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」は、「データセンターの国内立地促進に向け、データセンターのゼロエミッション化・レジリエンス強化のモデル創出や再エネなど脱炭素電源の導入を促進するための実証・補助事業・制度支援等を実施する」と述べる。データセンターの脱炭素や地方移転に、国の予算もつぎ込まれる見込みだ。

図 国が2021年6月に決めたデータセンター脱炭素政策
図 国が2021年6月に決めたデータセンター脱炭素政策
菅義偉首相がデータセンター脱炭素を宣言(写真:共同通信)
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始まった再生エネ購入

 国の政策に先立つ形で、一部の先進的なデータセンター事業者は電力の再生エネ転換を始めている。

 ヤフーは2021年5月、福島県白河市にある白河データセンターで利用する電力の一部を再生エネ由来に切り替えた。ヤフーは2023年度までに事業活動で使用する電力を100%再生エネ由来にするという全社目標を掲げている。ヤフーが事業活動で使う電力の95%をデータセンターが占めており、データセンターの再生エネ転換が非常に大きな意味を持つ。

 ヤフーの白河データセンターが使用するのは、「トラッキング付きFIT(固定価格買い取り制度)非化石証書」付き電力だ。ソフトバンクと同社の電力小売子会社であるSBパワーが供給する。非化石証書は太陽光発電や風力発電といった非化石電源からつくられた電気の環境価値を証書の形にしたもの。トラッキング付きFIT非化石証書は、FITの制度下で発電された電力のみを対象として環境価値を証書化し、さらに発電方法や発電所の所在地などのトラッキング情報を付与している。

 ヤフーのSR推進統括本部CSR推進室CSRリーダーの小南晃雅氏は「2023年度までに電力の100%を再生エネ由来に転換するという目標は、1年でも早く前倒ししたい」と意気込む。同社は北九州市にある「北九州データセンター」などでも再生エネ由来電力を使用する計画だ。

 ソフトバンクは2021年5月、2030年までに事業活動で使用する電力などによる温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル2030宣言」を発表した。ソフトバンクの宮川潤一社長執行役員兼CEO(最高経営責任者)は「しっかりやり遂げるという目線で2030年と宣言した。もちろん、できるならぜひ前倒ししたい」と話す。

 ソフトバンクの年間消費電力14億kWh(キロワット時)のうち、62%を携帯電話基地局が消費し、8%をデータセンターが使用する。現在は基地局の再エネ転換を中心に進めるが、データセンターに関しても2030年までに再生エネに転換する計画だ。

 富士通は2022年度までにクラウドサービス「FJcloud」を100%再生エネで運用する計画だ。富士通全体では国内外のグループ拠点で使用する電力における再生エネの利用を、2030年までに40%以上にする目標だ。

 日立製作所はグループのバリューチェーン全体でのCO2排出量を2030年度までに2010年度比で50%削減し、2050年度までに80%削減する目標を掲げる。そのために840億円を投資する計画だ。

 NTTデータやNECもそれぞれ、温暖化ガス排出削減目標の指標の一つであるSBT(Science Based Targets)における目標を定めている。

図 主なIT企業や通信企業が掲げる脱炭素目標
図 主なIT企業や通信企業が掲げる脱炭素目標
再生可能エネルギーへの転換を目指す
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