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交通渋滞――。日本を含む全世界が直面する古くて新しい難問だ。国内だけで渋滞は280万人分の年間労働力を奪う。経済損失は10兆円規模とみられる。新たに高速道路を造る、車線を増やすといった対処療法には限界がある。そんななか、対策の切り札として浮上しているのが人工知能(AI)だ。リアルタイムにデータを収集し高い精度で渋滞を予測。信号の制御にAIを生かす取り組みなどが始まった。

 ショッピングからの帰り道、渋滞に巻き込まれてうんざり──。東日本高速道路(NEXCO東日本)はこんなドライバーの不満をなくすために、人工知能(AI)を活用した新たな渋滞回避策に取り組んでいる。

 対象は東京湾を横断して神奈川県川崎市と千葉県木更津市を結ぶ高速道路の東京湾アクアラインだ。「休日の午後3時から8時ごろにかけて、上り線(川崎方面)で渋滞が慢性化している」とNEXCO東日本関東支社の外山敬祐氏は証言する。

ピークを振り分ける

 1997年に開通して以来、アクアラインを使って神奈川県などから木更津のアウトレットモールなどを訪れる人は増加する一方だ。2016年度の1日当たりの平均交通量は4万5000台と2010年度の約1.5倍に増えたという。

 だが渋滞の解消は容易でない。海上の道路なので、現在の片道2車線を増やすのは難しい。発光パネルの「ペースメーカーライト」を道路脇に設置して速度低下を防ぐといった対策を施しているが「効果は限定的だ」(外山氏)。

 NEXCO東日本が渋滞回避策として期待をかけるのがAIだ。AIで渋滞を高精度に予測し、ピーク時の交通量を他の時間帯に振り分ける策を講じる。具体的にはNEXCO東日本の利用者向けサイト「ドラぷら」で予測情報を配信するほか、混雑がピークになる時間帯に飲食店や日帰り温泉などのクーポンを配る。「渋滞が収まるまで休んでいこう」などと考える利用者を増やし、渋滞を分散させる狙いだ。

 NEXCO東日本は「混雑のピーク時にアクアラインを使う数百台の車を混雑時間帯以外に振り分けられれば、渋滞は発生しなくなる」と考える。渋滞はある交通量に達するまで発生せず、その量を超えると一気に発生するという非線形の特性があるためだ。

 2017年12月に始めた検証を通じて、同社は改善の手応えを得ているという。従来の人による予測と比べて、AIで予測することで最大渋滞長の予測誤差は4.7キロメートルから2.1キロメートルに減り、渋滞開始時刻の予測誤差は同41分から17分に縮まった。「予測精度を上げることは重要。天気予報と同じで、当たらない予測は利用者に使ってもらえない」と外山氏は話す。同社は2019年3月まで検証を続け、その後AIによる渋滞予測を本格的に導入する計画だ。

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図 東京湾アクアラインにおけるNEXCO東日本の取り組みの概要
図 東京湾アクアラインにおけるNEXCO東日本の取り組みの概要
人の位置データを活用して渋滞予測(写真提供:NEXCO東日本、画像提供:NTTドコモ)
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