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交通渋滞――。日本を含む全世界が直面する古くて新しい難問だ。国内だけで渋滞は280万人分の年間労働力を奪う。経済損失は10兆円規模とみられる。新たに高速道路を造る、車線を増やすといった対処療法には限界がある。そんななか、対策の切り札として浮上しているのが人工知能(AI)だ。リアルタイムにデータを収集し高い精度で渋滞を予測。信号の制御にAIを生かす取り組みなどが始まった。

 AIを信号制御と料金変動に生かす取り組みが進んでいる。平均速度が6割上がるなど効果も得られている。日本は実用化のハードルが高いが、産官学の新たな動きも始まった。

 時速40キロメートル以下での走行や停止と発進を繰り返す車の列が長さ1キロメートル以上になった状態が15分以上続く──。NEXCO東日本などは高速道路がこうした状況になったときに渋滞と呼ぶ。一般道路の場合、警視庁は時速20キロメートル以下の状態を渋滞とみなす。

 「渋滞は世界中の都市に共通の課題だ」。2018年7月19日、ソフトバンクグループのイベントに登壇した中国のライドシェア大手、滴滴出行(ディディ)の柳青社長はこう語り、「北京は人口が年々増えており、交通需要に対応できていない」と現状を説明した。

 渋滞は日本にも多大な経済損失を与えている。国土交通省によれば、渋滞による国内の損失は年約280万人分の労働力に相当する。経済損失額はざっと10兆円規模に及ぶとみられる。労働力不足や働き方改革への対応が叫ばれる現在、渋滞対策は待ったなしだ。

図 渋滞による経済損失額や損失時間など
図 渋滞による経済損失額や損失時間など
10兆円のムダが発生(出所:国土交通省(一部本誌推定)、写真:Getty Images)
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リアルタイムデータをAIで賢く

 とはいえ渋滞の解消は容易でない。対策で効果が大きいのは新たな道路の設置や車線の追加といったハード対策だ。しかしNEXCO東日本は「ハード対策は期間が長くコストもかかる。全ての渋滞多発箇所で実施するのは現実的でない」と指摘する。

 そこで国や道路事業者はソフト対策を併用している。渋滞情報をきめ細かく配信する、ETC(電子料金収受システム)に時間帯割引を適用する、表示板で「速度回復願います」と呼びかける、といった取り組みだ。これらはハード対策より実行しやすいものの、効果は小さい。

 一方、スマートフォンの普及やコネクテッドカーの登場などにより、車や人間の動きをリアルタイムで捉えられるようになってきた。これらのデータをAIで活用し、高い精度で渋滞予測や交通制御ができれば渋滞解消につながる可能性がある。AI活用の取り組みが広がっているのはこうした期待からだ。「車のスマート化の次はデータを生かした交通制御が重要になる」とIDC Japanの眞鍋敬リサーチ第2ユニットグループディレクターは話す。

 冒頭で紹介したNEXCO東日本の事例は渋滞予測の精度向上にAIを生かした例だ。このほかNTTデータとNECは交通インフラの制御にAIを生かす取り組みを海外で進めている。