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 SCSKのSE+センターシステム開発課に所属する野々垣圭織氏らのチームは社内向けのプロジェクト支援ツールをアジャイルで開発している。チームはもともとウオーターフォール中心の開発体制だったが、2019年12月にアジャイル開発に移行した。

 チームがアジャイル開発に徐々に慣れてきた2020年1月下旬、新型コロナ感染拡大に伴い在宅勤務に切り替えた。これによってチームの開発生産性が低下してしまった。

 同社はコロナ禍以前から2020年東京五輪・パラリンピックの交通混雑に備えてテレワークに取り組んできた。しかしチーム全員が長期間にわたってテレワークをするのは初めてだった。「開発生産性の低下を想定していたが予想以上だった」(野々垣氏)。

 チームのリーダーを務める野々垣氏はメンバーにヒアリングをするなどして生産性低下の原因を探った。すると、多くのメンバーが「コミュニケーション不足に陥っている」と感じていた。会話が減って互いの状況が分からなくなり、開発生産性を下げる原因になった。これが「状況把握」の壁である。

 テレワークによるリモートアジャイル開発でも、定期的にWeb会議を開いていた。しかしプロジェクトを進めるうえで必要な会話に終始していたという。

 「テレワークに移行する前は、オフィスで会議の時間にとどまらずメンバー同士が話し合っていた。雑談もあるが、それがきっかけで気づきや助け合いが生まれていた。そんなわいわいとしたコミュニケーションがテレワークで消えた」(野々垣氏)。

 野々垣氏はコミュニケーション不足による状況把握の壁を乗り越えるため、ある工夫を講じた。プロジェクトマネジメントの一環として「感情線」を導入したのだ。

図 SCSKの野々垣圭織氏らのチームが導入した「感情線」のグラフ
図 SCSKの野々垣圭織氏らのチームが導入した「感情線」のグラフ
メンバー1人ひとりのやる気を可視化(画像提供:SCSK)
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 感情線とは、やる気や気分などの「感情」が上向いているか、落ち込んでいるかなどを時系列で示すものだ。感情線の基となる感情はメンバー1人ひとりが毎日退社するとき、Windows標準の描画ツール「ペイント」にマウスで手書きする。-10~+10の範囲でそれぞれの感覚で数値を決める。

 感情が大きく変化した場合はその理由もテキストで書き込む。「対応方法思いついた」「不具合見つかりテンションダウン」といった具合だ。

 2週間ごとにオンラインで開く振り返りのミーティングで、全員の感情のグラフをチームで共有した。上げ調子のメンバーのグラフは上向き、落ち込んでいればグラフは下向く。その理由も分かる。

 感情線によってチーム全員が他のメンバー1人ひとりの状態と変化した理由を把握できるようになった。この情報をトリガーとして「チーム内のコミュニケーションが顕著に活性化し、互いの状況を把握するようになった」と野々垣氏は笑顔を見せる。困っているメンバーがいるとメンバーが解決策を教えるなど、以前のような助け合いが活発に生まれるようになったという。

 感情線はリーダーの野々垣氏にとってタスクアサインの判断材料にもなった。「感情線の浮き沈みによって、メンバーが担当しているタスクを得意としているか苦手なのかを推察できるようになった」(野々垣氏)からだ。

 野々垣氏らのチームは他にもコミュニケーションを活性化する策を講じた。Web会議ツールで話し合うときは親指を立てるや腕で輪を作るなどのジェスチャーを大きくして意思表示するルールを決めておく、といったことである。

 これらの方策が奏功し、チームの開発生産性はテレワーク開始前を上回るようになったという。