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急ぎ求められた在宅勤務に向け、企業はIT整備に始まり、人事制度見直しにも踏み込んだ。仕事の見える化やコミュニケーションのための新たな接点作りを急ぐ企業も出てきた。コロナ禍での緊急対応がウィズコロナ、アフターコロナ時代の常態になる。

 猫に小判ならぬ猫にキーボード。飼い猫がすり寄り、在宅でのパソコン作業が進まない「ネコハラ」という言葉がTwitter上で話題になった。新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けて、緊急事態宣言下でいかに多くの人が在宅勤務に取り組んだかを物語るエピソードだ。

 2020年春には多くの企業が在宅勤務を緊急で始められるよう様々な措置を講じた。だが緊急事態宣言が解除された後も首都圏を中心に第2波の兆しが見えるなど在宅勤務の長期化、さらには恒常化が見込まれる。緊急時の短期的な対策だけでは、いずれほころびが生じ、社員の生産性は低下する。長期にわたる在宅勤務を支えるには、ITインフラや人事制度の整備、社員のコミュニケーション活性化といった支援策が不可欠だ。

 先進企業は既に緊急対策の段階から、事態の長期化を見越した対策を打っていた。どのような対策を講じたのか、詳しくみていこう。

ITの整備と周知
使ってもらう仕組みも用意

 「新型コロナウイルス感染防止対策では、業務システムよりもITインフラを大幅に変更する必要があった」。三井化学の清水理夫情報システム統括部基盤グループコミュニケーション基盤チームリーダーはこう指摘する。在宅勤務を長期にわたり多くの社員に取り組んでもらうには、ネットワークやその上で使うコミュニケーションソフトなどIT環境の整備・拡充が不可欠だからだ。

図 新型コロナウイルス対策でテレワークを実施した企業が進めたIT関連施策
図 新型コロナウイルス対策でテレワークを実施した企業が進めたIT関連施策
在宅前提でITインフラを大幅見直し
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 同社は2020年3月初めから緊急事態宣言が解除される5月末までの約3カ月間、東京・汐留本社で働いていた約1300人の社員などを原則、在宅で勤務させた。それに伴って長期化を見据えた対策を打っていった。

 5月には第2波に備えるなどの狙いで、新たなVPN(仮想私設網)装置を導入した。それに先立ち、既存のVPN装置についてもメモリー容量を増やした。従来、グループ会社を含めて約1600人が同時利用できるように運用してきたが、一連の取り組みで約4000人が同時に使えるようにした。

 インフラの整備だけでなく、社外からVPN経由でアクセスできる社内システムの拡大、社内外で利用できるWeb会議サービスなどのルール策定、遠隔から複合機でファクシミリを送信できるようにするソフトの導入――など万全の体制を築いた。

事前準備などのコツを全社公開

 IT環境の整備と並行して、各社は在宅勤務を継続するうえで役立つ情報を社員に伝える「周知活動」を進めた。

 2020年4月、三井住友海上火災保険は緊急事態宣言の発令を受けて、多いときには全社員およそ2万人のうち、7~8割の社員が在宅勤務をすると決めた。その際、「在宅勤務 効率アップのポイント」という文書ファイルを全社に公開。2016年の在宅勤務制度の開始前後から、在宅勤務を試行して課題を洗い出し、解決策を検討してきた。その成果をこの文書ファイルにまとめ、社員が在宅勤務を長期にわたって続けられるようにした。

図 テレワークを導入した企業が進めた情報提供策の例
図 テレワークを導入した企業が進めた情報提供策の例
在宅勤務の長期化を見据え、役立つ情報を提供(画像提供:三井住友海上火災保険(在宅勤務 効率アップのポイント)、MSD(ビジネスチャット画面))
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 多岐にわたる文書ファイルの内容のうち「事前準備のチェックリスト」には、シンクライアントパソコンを社外に持ち出すための事前の手続き、Web会議サービスやビジネスチャットを利用するための設定など、在宅勤務を始めるために必要な項目を並べた。「円滑な在宅勤務実施に向けたポイント」では、「業務開始連絡は安否確認の意味も込めた重要なアクション」といった社員への注意や、「生活リズムは極力変えないほうがベター」など体調を維持する工夫を紹介し、在宅勤務の長期化を見据える。

 製薬大手のMSDは2020年3月以降、3300人いる社員が原則在宅で勤務する体制を続けている。この中で在宅勤務を円滑に進めるTIPS(コツやテクニック)をビジネスチャットやオンライン研修で伝えている。

 オンライン研修については内容を見直し、在宅勤務で活用が進んだWeb会議サービスの使い方などに変更。「社員からWeb会議の仕方といった問い合わせが増えてきた。内容を見直した後の研修は参加者が急増している」と、MSD情報システム部門テクノロジーサービスのセドリック・ティリオンアソシエイトディレクターは話す。