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 アジャイル開発の契約における最後のポイントは、企業や行政機関などと開発ベンダーのそれぞれのメンバーが「互いをリスペクトし合うフラットな組織」(細川氏)につながる体制をつくり、契約に明記することである。アジャイル開発に慣れた発注者と受注者であれば対等の関係でこそアジャイル開発がうまく進むと分かっているが、不慣れな場合は契約に盛り込んで意識させることで、発注者と受注者が「対等な立場」でプロジェクトに臨める。

 一般に、開発ベンダーの若年層と企業や行政機関の中堅層が議論すると、ベンダーの若手のほうが最新の技術動向に詳しい。ただそのまま技術論を重視してつくるものを決めてしまうと、ユーザーが必要としていない機能などを実装する恐れがある。

 一方で、企業や行政機関側がベンダーに対して高飛車な態度を取ると、意思疎通がうまくいかなくなる恐れがある。「自分たちが知らないことを相手が知っていると互いに考え、自分たちがよかれと思ったことでも必ず相手の意見を傾聴する雰囲気を醸成することが必要だ」と細川氏は訴える。

 こうした雰囲気をつくる前提として、契約書などに開発メンバーの役割を明記することが欠かせない。何を開発するかを決めるユーザー側の「プロダクトオーナー」や、開発チームを支援して生産性を高めることの結果に責任を持つ「スクラムマスター」など、個人ごとの役割(ロール)を明記する。発注者と受注者といった組織単位ではなく、1人ひとりのロールに基づくチームであると明確にするためだ。

図 アジャイル開発の体制
図 アジャイル開発の体制
「ロール(役割)」を明確にする(出所:情報処理推進機構の資料を基に日経コンピュータ作成)
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 アジャイル開発を支えるのは、開発メンバー間の強い信頼関係である。それは契約書には明記できない。「信頼関係があればウオーターフォール型開発プロジェクトの請負契約でも、柔軟に仕様を変更するなどアジャイルっぽい開発もできる」と、アジャイル開発に詳しいグロース・アーキテクチャ&チームスの鈴木雄介社長は言う。

 どんな成果物が出来上がるのか事前に分からなくても、信頼関係があればメンバーそれぞれが能力を発揮しやすいからだ。アジャイル開発の契約と、メンバーの強い信頼関係は互いに補い合う関係にある。