「60歳を過ぎても最前線で働き続けたい」。こんな意欲を持つシニアが増えている。人手不足もあって、雇う立場のIT企業も定年延長などに動く。シニアと会社の利害関係が一致するかのようだが、現実はそう単純ではない。自身の体力、年齢による差別、現役世代へのしわ寄せ―。最前線で活躍するシニアとIT企業への取材を基に、「老害」にならず「戦力」として活躍するための勘所を探る。
シニアSEの年収は以前よりも増える。実力次第で現役水準の年収も可能に――。人手不足を背景に、IT大手はあの手この手でシニア人材活用を急いでいる。その具体策とは。
IT企業は相次ぎシニア人材の雇用策を打ち出し始めた。人手不足で若手や中途の採用が需要に追い付かない現実が背景にある。シニア活用の成果が出始めているものの課題は多い。
日本人の平均寿命は男性81歳、女性87歳(2017年時点)。2050年に同84歳、90歳になるとの予測もある。人生100年時代が近づきつつあるのは確かだ。
IT人材供給、10年後に5万人減
ところが日本のビジネスパーソンの多くは50代で人生の分岐点に直面する。まずは役職定年だ。多くの日本企業で管理職は55歳になるとポストを後進に譲る。これを機に転職や独立を考える人も現れ始める。
次は定年となる60歳だ。そのまま現役を引退する人もいれば、年金の支給が始まる65歳まで再雇用を選ぶ人もいる。高年齢者雇用安定法により、企業は65歳までの再雇用を義務付けられている。ただし大半の企業は再雇用の給料を大幅に下げている。
体力や気力があり、現役の続行を希望する50代や60代のIT人材は多い。だが、こうしたシニア人材がモチベーションを維持して勤め上げられる制度が必ずしも整っていないのが実情だ。
一方で、人材不足への対策としてシニア活用は待ったなしの状況にある。経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、IT人材の供給は2019年の約92万人をピークに減少へと転じる。10年後の2028年には約87万人とピークより5万人減る見通しだ。
SCSKや富士通などIT大手は現役社員に配慮しつつ、役職定年や定年の仕組みを見直してシニアを積極的に活用する取り組みを進めている。
SCSKは65歳まで「正社員」
「シニア正社員制度」を2018年7月に始めたのがSCSKだ。60歳以上の社員は65歳まで正社員として働ける。1年ごとに契約を更新する従来の再雇用制度は撤廃した。シニアの年収は最大で従来の1.7倍ほどに増えたという。
「IT人材は不足しており、特に高い専門性を持つ人材の需要は増す一方だ」。SCSKの和南城由修人事企画部副部長はシニア正社員制度を導入した背景をこう説明する。
和南城氏は「旧制度はセーフティーネットや雇用維持の意味合いが強かった」とする。これに対し、シニア正社員制度は「シニアを主力人材と位置付ける会社としての姿勢の表れだ」(同)と強調する。貢献に応じて処遇を変えて、シニアの専門性やパフォーマンスの維持を支える狙いだ。
SCSKがシニア活用に力を入れるのは再雇用社員が今後急増する事情もある。同社で働く60~65歳のシニアは現在約180人。予想では2021年に600人を超える。「今のうちに抜本的な対策を打つ必要があった」(和南城氏)。