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「60歳を過ぎても最前線で働き続けたい」。こんな意欲を持つシニアが増えている。人手不足もあって、雇う立場のIT企業も定年延長などに動く。シニアと会社の利害関係が一致するかのようだが、現実はそう単純ではない。自身の体力、年齢による差別、現役世代へのしわ寄せ―。最前線で活躍するシニアとIT企業への取材を基に、「老害」にならず「戦力」として活躍するための勘所を探る。

シニアを取り巻く環境は依然として厳しく、特に日本は年齢差別の風潮が残る。自らを振り返り、常に学ぶ姿勢がシニア自身の打開策となる。ジェロントロジー(老年学)の専門家がシニア活用とシニアの働き方を提言する。

 「30代前半までの上流工程ができるSEをお願いします」「現場のリーダーが35歳なので、年齢はそれ以下が望ましい」─。あるSE派遣業の営業担当者は顧客からこんな要望を受けると話す。若いエンジニアが好まれる傾向は依然として日本のIT業界全体に強く残っている。

 一方でシニア世代になってもエンジニアとして働くことを望む人が増えている。ここではシニア世代はシニア予備軍を含む45歳以上を指すとする。

 問題はシニアSEが現場で生き生きと働ける環境が必ずしも整っていないことだ。技術やノウハウにたけていても、年齢を重ねると体力などが衰えていく。にもかかわらず、大半の人事制度はシニア世代の能力を若手と同じ物差しで測っている。これではシニア世代が能力を発揮するのは難しい。

 シニア世代のエンジニアが生き生きと働き続けるには雇用する側の経営者や上司、同僚が考え方を変える必要がある。同時にシニアSE自身が生き方や強みを見つめ直す必要もある。まず雇用する側の視点からシニア活用の実情と対策を見ていく。

日本企業にはびこるエイジズム

 冒頭で紹介したのはエイジズム(ageism)の例だ。広義には「全ての年齢における偏見や差別」、狭義には「高齢者に対する年齢差別」を意味する。日本は海外に比べ、狭義のエイジズムが多く見受けられる。

 エイジズムの原因として偏見によるものと制度的なものの2種類がある。「全ての高齢者は若者よりも仕事が遅い」などと決めつけるのは偏見によるエイジズムの例だ。こうした人は急ぎの作業を頼むときに「おじさんは遅いからやらなくていい」などと、つい口に出してしまう。

 逆に「どの高齢者も若者より知識や経験が豊富」と捉えるのも若手に対するエイジズムである。地方の商工会議所で役員が全て60代または70代という例を見かける。理由を尋ねると「若い人には無理ですから」というあいまいな答えしか返ってこないものだ。

 制度的なエイジズムは定年退職や、中途採用時に年齢制限を設けることなどを指す。今でこそ求人票に年齢制限を設けるのは禁止されているが、以前は「正社員システムエンジニア募集!40歳までの方」「経験不問。ただし35歳までに限る」などと書くのが認められていた。

図 IT業界における「エイジズム」の例
図 IT業界における「エイジズム」の例
年齢差別は珍しくない(写真:Getty Images)
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 米国は定年制度を高齢者差別とみなし、1986年に年齢による雇用差別禁止法を徹底した。日本も2007年10月に雇用対策法を改訂して、事業主は労働者の募集と採用について年齢に関わりなく均等な機会を与えなければならないとし、年齢制限の禁止を義務化した。2015年には高年齢者雇用安定法が改訂されている。

 それでもシニア世代を取り巻く状況はまだ厳しい。筆者はIT企業300社以上が参加するソフトウエア開発集団ユーオス(UOS)関東支部が2014年に立ち上げた「高齢IT技術者対策タスクチーム」に協力している。タスクチームが会員企業にヒアリングしたところ、ほぼ全ての会社が「若手はシニアエンジニアを使いづらいと感じている」と打ち明けた。

 指摘が多かったのはプロジェクトマネジャー(PM)が年下のケースだ。シニアSEがメンバーにいると、PMは「コミュニケーションを取りにくい」と嫌がるという。ある会社は「30歳そこそこの人間から見ると、60歳近いシニアは父親のようなもの。間違っているとは言いにくい」と説明した。

 シニア世代のエンジニアからは「仕事の依頼が来ない」という不満も耳にする。大きな理由がエイジズムの強さにあるのは間違いない。

図 職場の「エイジズム」チェックリスト
図 職場の「エイジズム」チェックリスト
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