ビジネスチャットは具体的にどのような業務で活用されているのか。導入事例を基に、ビジネスチャットが高める4つの力に迫る。
工事現場から飲食店まで様々な業務にビジネスチャットが使われ始めている。チャットをいち早く業務の効率化に活用してきた分野がソフトウエアの開発・運用だ。
IT運用力を上げる
サーバーやネットワークが発するエラーメッセージをチャットに自動で取り込む使い方はいまや定番になった。さらに踏み込み、システム運用全体をチャットを介してできるようにするChatOpsに取り組む企業が出てきた。
サイバーエージェントは同社のスマホ向け広告サービス「CA ProFit-X」の運用にChatOpsを導入した。導入を指揮したアドテク本部の小栗プロダクトマネージャーは、「作業の流れをシステム運用チーム全体で共有しやすいので、急なトラブル対応でも作業の漏れや重複、行き違いを減らせる」と説明する。
専門スキルを持たないスタッフが運用作業を手助けできる点も強みだ。複数の操作が必要だった運用作業を1つの作業指示コマンドにまとめるなどして、チャット形式で操作を簡単にできるからだ。実際に小栗氏らのチームには技術者のほかに2人のデザイナーが参加している。
チャットでセキュリティ対策
ChatOpsを導入したCA ProFit-Xのサーバーは外部のクラウドサービスで稼働している。ChatOpsで自動化した運用作業は、仮想サーバーの追加や消去から、開発済みのソースコードを実行形式にするビルド、ビルドしたプログラムを検証するテスト、テスト済みのプログラムを本番環境に展開するデプロイにまでに及ぶ。
例えば仮想サーバーの再起動は「Reboot 仮想サーバー名」、本番環境への展開なら「Deployment プロジェクト名」などと、簡単な文字列をチャット画面上に入力して送信するだけで、複数の操作をまとめた運用作業を一括で実行するようにした。
チャットと連携する外部プログラムであるチャットボットが投稿内容を常に監視している。特定の文字列が書き込まれたら「コマンド」と見なし、それをトリガーにチャットボット側で定義した複数の運用操作を逐次実行していく仕組みだ。サイバーエージェントはチャットサービスに米スラック・テクノロジーズが提供する「Slack」を導入。チャットボットの開発については米ギットハブを中心に開発されたフレームワーク「Hubot」を採用した。
システム運用技術者の間では、セキュリティや運用ミスに対する懸念から、業務システムへのChatOps導入に慎重な見方もある。サイバーエージェントはチャットボット側で一定のセキュリティ対策を実装し、リスクを減らした。チャットボット側で必ず「誰が」「どの会議室(チャンネル)」でコマンドを入力したかを確認し、操作の権限を持つ者と使用場面を限定したのだ。具体的には運用作業は関係者だけが参加できる専用の会議室を設けた。
ChatOpsを適用しているサービスについては、一度に操作できるサーバーを限定している。操作ミスによってシステム基盤の広範囲に悪影響を与える事態を防いでいる。
現場力を上げる
九電工は電気工事の現場で必要となる事務作業をチャットで自動化するプロジェクトを推進している。ペーパーレス化を進めて書類を扱う煩わしさを減らし、安全確認などの本来業務に集中できる環境を整える狙いだ。これまで自動化のためのチャットボットを4種類開発した。チャットサービスはソフト開発のL is Bが提供する「direct」を採用した。
現場の負荷軽減につなげようとしているのが、今夏に一部の工事現場から導入した熱中症予防の自己チェックを支援するチャットボットだ。チャットアプリから「熱中症予防ボット」を対話相手に選ぶと、直ちにサーバー側のチャットボットが起動し、作業者に対して質問を送信する。作業者は「1 昨晩はよく眠れたか」「2 疲れはたまっていないか」などの質問を見て、問題がある項目の数字を並べて回答するだけだ。回答もチャットで送信する。
作業者が送信した回答はチャットボットを介してサーバー側で集計する。熱中症が疑われる回答が一目で分かるため、監督者は症状が出た作業者をケアするなど、より実効性のある予防行動が取れる。回答はサーバー側で集計し、クラウド上に保存。会社に提出するための書類も自動生成する。
熱中症予防の自己チェックは早朝から夕方まで1日5回実施する。従来は紙のチェックシートを配って各作業者に記入してもらい、監督者らが回収していた。この一連の作業がチャットの導入で1分前後の所要時間で済むようになった。現在までの運用では回答率の向上も認められた。紙の場合、記入が面倒なため質問をあまり確認せずに回答するなど機能していない面もあったという。
九電工は建設関連業法で義務付けられている法定書類の自動作成にも取り組む。第1弾として現場作業の前に必ず作成しなければならない「リスクアセスメント表」の自動作成を2018年9月から実施する。タブレットを使い、現場作業者がチャット画面上でサインを手書きすることで、ペーパーレスのまま書類が完成する仕組みを実装した。
工事現場で処理する事務は、「安全巡視確認書」「災害報告書」「ヒヤリハット記入シート」など多岐にわたる。本岡マネージャーは「あらゆる現場業務の負荷軽減が対象になる。現場や社内の評価を踏まえながら、チャットの適用範囲を広げていきたい」と語る。