PR

配車アプリから半導体、自動運転、金融、医療、衛星通信、農業、鉱山開発まで――。孫正義氏が率いるソフトバンクグループと10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の投資先は一見するとバラバラであり統一感が全くない。出資先への取材を基に孫氏の目利き力を検証する。

 ソフトバンクが買収した英アーム。同社はハードウエアだけでなくソフトウエアやサービスの開発強化を急いでおり、孫正義が描くAI戦略の中心的な存在といえる。このほか自動運転やビジネスチャットといった注目分野に強みを持つ会社に投資するなど、AIやIoTの基盤を牛耳ろうとする孫氏の狙いが見えてくる。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドなどが出資する海外4社
企業名業種出資額
英アーム半導体設計310億ドル
米エヌビディアGPU開発40億ドル
米ブレイン自動運転1億ドル
米スラックビジネスチャット2億ドル

英アーム

半導体からAI・IoTの企業へ

 半導体回路を設計する企業から、ハードとソフト、サービスを取りそろえたAI・IoT企業へ。ソフトバンクが買収した後のアームは、その形態を大きく変えつつある。

 アームは2018年8月2日(英国時間)、ビッグデータ分析の米トレジャーデータを買収すると発表した。狙いはIoTデバイスとそこから生成されるデータを統合管理するIoTプラットフォームの実現だ。IoTサービスを実現するパズルの最後のピースがトレジャーデータだったという。

アーム 戦略担当上級役員のノエル・ハーレー氏
アーム 戦略担当上級役員のノエル・ハーレー氏
[画像のクリックで拡大表示]

 アームはAIの分野を巡って「ProjectTrillium」と呼ぶ開発プロジェクトを2018年2月に立ち上げた。その目的は2つある。

 1つは同社が提供するCPUコアやGPUコアに続く新たな演算回路として「機械学習(ML)プロセッサ」や「物体検知(OD)プロセッサ」を開発することだ。2018年秋をメドに回路のライセンス提供を始める。実際に顧客のチップに載るのは2019年になる見通しだ。

図 アームのプロジェクト「Project Trillium」のカバー範囲
図 アームのプロジェクト「Project Trillium」のカバー範囲
[画像のクリックで拡大表示]

 開発中のML/ODプロセッサの特徴は、スマートスピーカーから自動運転車、スパコンに至るまで、広範な用途で使えるアーキテクチャーにある。「当初はエッジにフォーカスする。まずはスマートフォンへの搭載、次に(Amazon Echoのような)スマートスピーカーの音声認識チップへの搭載を狙う」(アームの戦略担当上級役員ノエル・ハーレー氏)。

アーム本社は社員用カフェテリアの上の階に役員の部屋があり、出張などで不在の場合はミーティングに使える
アーム本社は社員用カフェテリアの上の階に役員の部屋があり、出張などで不在の場合はミーティングに使える
[画像のクリックで拡大表示]

 プロジェクトのもう1つの目的は、ニューラルネットの学習や推論に使うソフトウエア基盤の整備にある。「TensorFlow」や「Caffe」といったニューラルネットの主要開発フレームワークについて、アームが提供するCPUやGPU、ML/ODプロセッサにタスクを割り振り、効率的に演算できるようにする。

 さらに2018年3月にはソフトバンクグループが出資する米エヌビディアと提携し、エヌビディアが回路設計図を無償公開しているアクセラレータ「DLA」にも対応させた。「今後、AIの演算に使う回路のアーキテクチャーはますます複雑になる。こうしたアーキテクチャーの違いを吸収するソフトウエア基盤が重要になる」とハーレー氏は語る。