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配車アプリから半導体、自動運転、金融、医療、衛星通信、農業、鉱山開発まで――。孫正義氏が率いるソフトバンクグループと10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の投資先は一見するとバラバラであり統一感が全くない。出資先への取材を基に孫氏の目利き力を検証する。

 ソフトバンクグループの歴史はM&A(合併・買収)の歴史だ。ただ、これまではもっぱら自社の事業を拡大するためだったM&Aが、いまや未来の強者連合作りの手段へと変わりつつある。「300年続く構えを作った」と豪語する、孫正義氏の狙いとは。

 世界ナンバーワンの座につく可能性を秘めたIT企業の集合体――。ソフトバンクグループが出資する企業群の特徴を一言で表すとこうなる。孫氏は「群戦略」と表現する。

 出資先の企業は互いの強みを生かしながら新サービスを共同開発したり、相互の顧客を融通し合ったりする。この繰り返しによって相乗効果を生み出す。世界のナンバーワン同士が組めば、圧倒的に強いサービスが実現できるという考え方だ。

 強者連合を組むのが最優先であって、必ずしも出資先を支配したり統治したりすることにはこだわらない。むしろ出資比率は30%前後などにとどめ、創業者のビジョンや情熱、自主性を尊重する。

ソフトバンクグループの沿革
時期 内容
1981年 9月孫正義氏が日本ソフトバンク設立、パソコン用パッケージソフトの流通事業を開始
96年 1月
米ヤフーとの共同出資で日本法人ヤフーを設立
99年 6月
全米証券業協会(NASD)と「ナスダック・ジャパン」の創設で合意
2001年 9月ビー・ビー・テクノロジー(現ソフトバンク)がブロードバンドサービス「Yahoo!BB」を開始
04年 7月
日本テレコム(現ソフトバンク)を子会社化し固定通信事業に参入
05年 1月
福岡ダイエーホークス(現福岡ソフトバンクホークス)を子会社化
8月
中国アリババ・ドットコム(現アリババグループ)、米ヤフーと3社で中国事業で基本合意
06年 4月
ボーダフォン(現ソフトバンク)を子会社化し携帯電話事業に参入
08年 7月
ソフトバンクモバイル(現ソフトバンク)が「iPhone 3G」を発売
10年 7月
「ソフトバンクアカデミア」を開校
2012年
10月
米スプリント・ネクステル(現スプリント)の買収を発表
13年 1月
イー・アクセス(現ソフトバンク)を子会社化
15年 4月
ソフトバンクモバイル、ソフトバンクBB、ソフトバンクテレコム、ワイモバイルが合併
7月
ソフトバンクをソフトバンクグループに、ソフトバンクモバイルをソフトバンクに社名変更
16年 6月
後継者の最有力候補とされたニケシュ・アローラ副社長が退任
7月
英国アーム・ホールディングス(現アーム)の買収を発表
10月
投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の設立を決定

 「組むなら世界ナンバーワンでなければ意味がない」。孫氏はこう言い切る。ナンバーワンにこだわるなら米IT大手のGAFA、つまりグーグルやアマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップルといった会社とは組まないのか。あるいは群戦略でGAFAに対抗できるのか。こういう疑問も浮かぶだろう。

 だが孫氏に言わせれば「時間軸」が少し違うかもしれない。つまりGAFAは現在の勝者。ソフトバンクが見据えるのは未来の勝者だ。

 アマゾンはインターネット上に物販サイトを設けて小売業を破壊し、ITのリソースをネット経由で貸し出すクラウドサービスでITのハード産業を破壊した。グーグルやフェイスブックはネットを軸に広告業界を破壊し、アップルはネットにつながるコンピュータ、つまりスマートフォンでモバイル端末の市場を創出した。いずれもネットを武器にした破壊活動であり、インターネットというプラットフォーム上での変革と言える。

 孫氏は「キーワードがインターネットからAIに移る」とみる。GAFAがネットを駆使していくつかの産業を破壊したような動きが全産業で起こる。その時に破壊者が駆使するのはAIであり、AIを使いこなす企業が未来の勝者になると読む。

 GAFAが今の勝者なら、10年後、何十年後の勝者を見つけ出して群戦略の仲間に組み入れることを狙う。「AIを制する者が未来を制する。AIにまっしぐらに取り組んでいる」(孫氏)。

 世界の強者連合に向けた群戦略の構想は「20年前からあった」と孫氏は語る。だが本格的に動き出したのは、ほんの2年1カ月前。2016年7月の英アーム買収発表だ。