MS&ADグループはDXを「既存損保事業の業務変革」と位置付ける。既存事業における最大の課題は、11年連続の赤字に苦しむ火災保険の収益改善だ。AI(人工知能)によって損害調査の時間短縮や、営業効率の改善を目指す。
火災や風災、水災に備える火災保険における業務効率化の切り札は、AI(人工知能)とドローンだ。三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険は2021年6月、ドローンメーカーのエアロセンスと共同で、浸水高や被害状況を推定し、保険金支払期間を大幅に短縮する体制を整えた。
「1万件の被害件数を仮定したときに、立ち会い調査を7000件分、調査要員を約2800人減らせると見込んでいる」。三井住友海上の損害サポート業務部企画チームの丸山倫弘課長はそう話す。調査要員を減らせるだけでなく保険金支払いも迅速になる。「事故受け付けしたその日に支払い手続きまで完了したケースもある」(丸山課長)。
悪徳修理業者の介入などによって誤った申告で保険金を不当に請求する「不正請求」の検出にも役立つ。「ドローンの推定結果と顧客からの申告が大きくかけ離れている場合にチェックできるようになった」(丸山課長)ためだ。
ドローンの飛行時間を半分以下に
水災が発生した際には、エアロセンスの固定翼型ドローン「エアロボウイング」が被災地域を上空から撮影して、地表の3次元モデルを作る。エアロボウイングは4個のプロペラで垂直に浮き上がり、上空では固定翼で飛行機のように飛ぶ。最大時速100キロメートルという高速で移動可能だ。
MS&ADグループはドローンを2020年7月の「令和2年7月豪雨」から水災調査に活用しているが、従来のマルチコプター型ドローンは撮影に時間を要することが課題だった。固定翼型のエアロボウイングを熊本県の球磨川流域で試したところ、800ヘクタールほどの面積を約100分で撮影できた。従来型では240分ほどかかっていたので、飛行時間は約6割削減できた。
固定翼型ドローンは広域災害を想定して導入した。例えば東京都と埼玉県を流れる荒川が氾濫した場合、人間だけなら数カ月以上、従来型ドローンなら1カ月以上を調査に要するが、「固定翼型のエアロボウイングなら数日程度で撮影を終えられると見込んでいる」(丸山課長)という。
撮影画像に基づく被害推定には流体シミュレーションを活用する。まず撮影画像を基に地表の3次元モデルを生成し、そこでAIを活用した流体シミュレーションを実行する。そして各地点における浸水高を推定し、「全損」と判断した場合はそのまま保険金を支払う。「全損」とは顧客の建物の大半が水没し、契約の保険金額全額を支払うケースのことだ。