システム開発のスピードを上げるには、プロジェクトマネジャーやプロジェクト・マネジメント・オフィス(PMO)によるマネジメントが重要だ。プロジェクトごとの進捗を管理するだけでなく、人材を適切に配置したり、開発の障害になりそうなリスクを把握したりする。こうしたマネジメントをいかにきめ細かく行うかが、開発のスピードを左右する。
そこで始まったのが、プロジェクトマネジャーやPMOを支援するAI(人工知能)の活用だ。日立製作所とTISの事例を見ていこう。
チケットから進捗やリスクを分析
日立製作所は2021年から、AIツールを順次開発・導入し、ある事業部のプロジェクトマネジャーやPMOを支援している。ここでは2つのAIツールを取り上げる。
1つめのAIツールはプロジェクトの状態を監視し、異常をいち早くプロジェクトマネジャーやPMOに知らせるものだ。オープンソースソフトウエア(OSS)の「Redmine(レッドマイン)」やオーストラリア・アトラシアンの「Jira Software(ジラ・ソフトウエア)」といったチケット管理ツールや、OSSの「Git(ギット)」などのバージョン管理ツールに蓄積されたデータを分析。プロジェクトを継続的に監視し、不具合数が増えたなどの変化があるとプロジェクトマネジャーにアラートを送る。
AIツールの開発には「SDAR」というアルゴリズムを採用した。SDARはトレンドの変化や外れ値の検出に向く。日立製作所の川上真澄研究開発グループサービスシステムイノベーションセンタDXエンジニアリング研究部シスX4ユニットリーダ主任研究員は「2020年に手掛けた約50件のプロジェクトの情報を用いてAIを開発した」と説明する。
開発したAIツールは、不具合チケットの数やプログラムの評価基準(コードメトリクス)の変化を検出する。例えば顧客の受け入れテストによって不具合チケットが増加すれば、ただちにプロジェクトマネジャーやPMOに通知する。また予定にないOSSなどのコード流用や予期せぬコード追加などが発生した場合、AIがコードメトリクスの変化を推測してプロジェクトマネジャーに知らせる。
遅延相関分析による将来予測のAIも導入した。これが2つめのAIツールである。このAIはプロジェクトの現状から今後起こり得る事象を予測する。例えば、設計品質が悪いうえにレビュー回数が少ないのでバグの数が増えそうだ、熟練者が異動したので開発に遅延が発生しそうだ、といった事象を予測しプロジェクトマネジャーに知らせる。
遅延相関分析のAIはEclipse Platform(エクリプス・プラットフォーム)のプロジェクトを対象に131種類のメトリクス間の相関関係を学習させたという。プロジェクトで利用するチケット管理システムやリポジトリーの情報から得た情報と照らし合わせる。その後、業種などの分野固有ルールを適用して今後発生しそうな事象を提示する。
現時点ではプロジェクトマネジャーやPMOを支援するAIの導入は限定的だが、AIによる支援によって予算超過や開発の手戻りを削減でき、「事業部全体で数億円のコスト減につながっている」(川上主任研究員)という。