全6075文字
PR

 「毎日同じ時間帯に同じ方向に向かうという以前からの乗客のニーズが変わってきている」。JR東日本の得永諭一郎執行役員MaaS・Suica推進本部部長はこう述べる。乗客は通勤のために一斉に移動するという「密」になりがちな行動を、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために避けたいと思うようになっているのだ。

 国土交通省によると、JR東日本や東京地下鉄(東京メトロ)など大手鉄道会社の主なターミナル駅における平日のピーク時間帯の自動改札出場者数は減少している。感染拡大前の2020年2月下旬の自動改札出場者数を100としたとき、首都圏では4月上旬から5月下旬までの緊急事態宣言下で駅利用状況が30近くまで落ち込んだ。だが、緊急事態宣言が解除された6月以降は駅に人が戻りつつあり、60~70を推移している。

図 国土交通省が公表する2020年2月下旬を100とした際の首都圏ターミナル駅におけるピーク時間帯の駅利用状況
図 国土交通省が公表する2020年2月下旬を100とした際の首都圏ターミナル駅におけるピーク時間帯の駅利用状況
緊急事態宣言下に比べ2倍(出所:国土交通省の資料を基に日経コンピュータ作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 コロナ禍前よりも駅を利用する人は減っているとはいえ、朝夕の通勤時間帯は「社会的距離」を保てる状況とは言い難い。クラスターを発生させる恐れのある通勤ラッシュをなくすため、「利用時間や路線を分散させて利用者数を平準化し、混雑を緩和する必要がある」と国土交通省の重田裕彦総合政策局モビリティサービス推進課長(取材時)は指摘する。

ITを活用し利用者数を平準化

 そうした中、JR東日本や西日本鉄道の西鉄バスといった交通事業者、ヤフーなど経路検索サービスを提供する企業が、あるITサービスの開発や機能拡張を急ピッチで進めている。それが「通勤ラッシュ回避IT」である。通勤ラッシュ回避ITとは、公共交通機関の混雑状況を計測・配信して利用の分散を促すサービス。新型コロナ感染防止のために、利用者が通勤・通学時などに混雑を極力避けながら安心して移動できるよう支援する。

JR東日本は京浜東北線などで混雑状況をほぼリアルタイムで配信(写真・画像提供:JR東日本)
JR東日本は京浜東北線などで混雑状況をほぼリアルタイムで配信(写真・画像提供:JR東日本)
[画像のクリックで拡大表示]

 JR東日本は電車の車輪がついている台車と乗客がいる車体の間にある空気バネの圧力データを混雑の推定に使う。ヤフーは利用者の経路検索履歴データを人工知能(AI)で分析する。西日本鉄道の西鉄バスは利用者の8割が使う交通系ICカードの利用履歴から混雑度を算出する。以下で各社の取り組みを見ていこう。