全3315文字

社員がデジタルスキルを習得するためには、それにふさわしいマインドセットが必要だ。現場主導のリスキリングにおいては、スコープの中に「職場環境の変革」を入れて、現場の上司である管理職もリスキリング施策に巻き込んでしまうのが効果的になる。

 本連載では、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進を目指す企業はどのように社員のリスキリングを進めればいいのか、全体計画の立て方から現場を巻き込むコツまで詳しく解説します。

 前回は、経営によるトップダウンではなく、既存事業の現場が主導するタイプのリスキリング事例を紹介した上で、組織が抱える課題とリスキリングの関係、リスキリングの推進を阻む個人のメンタルモデルについて解説しました。

 現場主導のリスキリングの特徴は、組織の具体的な課題、例えば「デジタル化を進め、業務の生産性や品質を高めたい」といった課題を解決するという明確な目的を持っている点です。

 現場のリーダーが目指す変化に対して、組織のメンバーはポジティブ、ネガティブ、様々な反応を示すでしょう。現場のリーダーはリスキリングにあたり、メンバーのメンタルモデルを適切な方向に転換し、課題解決に導かなければなりません。

 リスキリングが単なるスキル習得の手段ではなく、組織の課題解決が目的なのだとすれば、どのような考え方やプロセスで進めることが望ましいのでしょうか。

マインドセット把握と改善

 リスキリングのプロセスを検討する際に考慮すべき重要なポイントは「リスキリング対象者のマインドセットを把握し、改善を促すこと」にあります。デジタルスキル習得の機会を提供しても、対象者のマインドセット次第では十分な成果を得られないためです。「デジタルスキルを習得して業務へ生かすことはごく自然な行動だ」という捉え方になるようなマインドセットが必要です。

 筆者は企業からリスキリングについて相談を受けます。その中で一部の企業は「業界内で進むDXなど、状況の変化に従業員の意識が追いついていない」といった課題を感じていました。

 そうした企業は、社員が自らのリスキリングを必要と感じていない割合が高いと考えられます。ゆえに、スキル研修だけではその効果は十分得られにくく、マインドセットの把握と改善をセットで進める必要があります。

 さらにリスキリングを組織的な課題解決の手段として捉えた場合、リスキリング対象者の直属の上司や同僚の存在は大きな影響を及ぼします。

 組織のメンバーは、組織におけるアナログ型とデジタル型それぞれの人数比率の影響を受け、いずれか多いほうのマインドセットに引っ張られます。また声の大きな人、あるいは上司である管理職のマインドセットにも強く影響を受けます。

 もし本人の周りの同僚や上司のマインドセットがアナログ型であった場合、本人のマインドセットをデジタル型に変えていく難度は高まります。変わることができたとしても、アナログ型が多数派の職場では本人は居心地の悪い思いをするでしょう。

図 組織・管理職のマインドセットがリスキリングに及ぼす影響
図 組織・管理職のマインドセットがリスキリングに及ぼす影響
デジタル型への変換が難しい組織
[画像のクリックで拡大表示]

 このように職場環境が対象者に及ぼす影響の大きさから考えて、現場主導のリスキリングにおいては、スコープの中に「職場環境の変革」を入れておくことが重要です。本人を取り巻く環境を考慮し、どのような状態であればリスキリングがうまく進むのかを考えます。