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テレワークができる社員を強制的に出社させる企業が増えている。経営層や上司がコロナ前の出社前提の勤務を良いものと考えているためだ。このまま強制出社を続けると、社員の離職や採用難に見舞われる恐れがある。

 テレワークで担当業務をこなせる社員に対して出社勤務を強いる、いわゆる「強制出社」をする企業が、2021年9月に緊急事態宣言が解除されて以降、増えている。「第6波」の中で政府はテレワークを呼びかけるが、こうした企業は今も社員に出社を求めている。

 「宣言解除後に多くの企業で、久しぶりにメンバーがリアルにそろい、経営・マネジメント層が出社の良さを改めて実感している。この結果、不要な出社が増えている」。テレワークの動向に詳しいパーソル総合研究所(パーソル総研)の小林祐児上席主任研究員はこう話す。

 テレワーク解除の動きはデータでも分かる。パーソル総研が外部データを活用して、東京の職場における平日の訪問者数について、コロナ前を基準に減少率を計算した。すると緊急事態宣言中の2021年夏ごろの減少率は45%だったが、緊急事態宣言が明けた2021年12月末は16%前後。約30ポイント分、訪問者が増えた。

 テレワーク定着に向けた取り組みなどを検討する総務省の「『ポストコロナ』時代におけるテレワーク定着アドバイザリーボード」では、「(緊急事態宣言が解除されるとテレワークから出社勤務へ戻すといった)短絡的なオールドノーマル回帰への危機感は高まっている」(小林上席主任研究員)という。

 特に地方では強制出社が顕著に増えている可能性がある。「首都圏や都市部の企業でテレワークが定着している一方、地方企業などはコロナが落ち着くと出社勤務に戻す傾向がある」。テレワークの導入支援にも携わるパソナリンクワークスタイル推進統括の湯田健一郎氏はこう明かす。

働き手と経営層の考え方にギャップ

 強制出社はなぜ起こるのか。要因の1つは「テレワークに対する経営層と社員の考え方のギャップ」だ。テレワークを経験した働き手(社員)の多くはテレワークを続けたいと考えている。通勤せずに済んだり、Web会議サービスなどを使えば遠隔地にいる人ともすぐにコミュニケーションが取れたりするメリットを実感しているからだ。

 一方、経営層はどうか。「オフィスに出社すれば組織への愛着が湧いたりパフォーマンスが高まったりすると考え、働き手の出社機会を増やしたいと考える傾向が強い」(パソナの湯田氏)。

 「テレワークに取り組む目的」や「現場の上司の判断」も強制出社の要因になり得る。パーソル総研の小林上席主任研究員は、企業がテレワークに取り組む目的が新型コロナウイルスの感染拡大防止に特化し過ぎている点を強制出社の1つの要因とみる。

 こうした目的だと、企業は従来の働き方やマネジメントを大きく変えないままテレワークに移行しがちなため、テレワークに伴い仕事の効率は下がり気味になる。「テレワークだと職場内のちょっとしたコミュニケーションが取りにくい」といった課題が出てきやすくなることもあって、「テレワークでできる仕事でも出社したほうが効率的なため、感染拡大が収束すれば出社への流れが自然と出てくる」(小林上席主任研究員)。

 「現場の上司の判断」という要因について、特定社会保険労務士であり企業のテレワーク動向に詳しいSRO労働法務コンサルティングの杉本一裕代表は「テレワークができる社員を出社させるのは、現場の上司の判断によるところが大きい」と説明する。一方会社として「これからは強制出社だ」と明言するケースは少ないという。

 杉本代表によると年配の人ほど出社率が高い。特に年配の管理職は「部下も出社すべきだ」と考えたり、「ビジネスチャットやリモート会議は面倒だ」と感じたりしがちだという。

 パーソル総研の小林上席主任研究員も「テレワーク下で部下の仕事のプロセスが見えないことにフラストレーションをためていたマネジメント層にとっては出社勤務のほうが望ましく、部下の強制的な出社につながっている。出社の判断が、社員やマネジャーそれぞれの自由意志に任されてしまっているため、上司や先輩による出社の同調圧力も起こりやすい」とみる。