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ソフトバンク元社員が不正競争防止法違反容疑で逮捕された。競争力の源泉である技術や設備情報の流出は企業にとって深刻な痛手だ。いま一度、自社の情報管理体制を見直すべき時期に来ている。

 楽天モバイルの社員が前職のソフトバンクから機密情報を不正に持ち出したとして、2021年1月に不正競争防止法違反(営業秘密領得)容疑で警視庁に逮捕された。ソフトバンクは「準備が整い次第、利用停止や廃棄を求めて楽天モバイルに対し民事訴訟を提起する予定」(広報)である。

 同容疑者が不正に持ち出したのは、5G(第5世代移動通信システム)や4Gネットワークの基地局設備、基地局と交換機を結ぶ固定通信網に関する情報など。ソフトバンクに退職を申し出てから退職日までの間に約30回にわたり、会社のメールアドレスから私用のアドレスにメールを送る手法で約170点のファイルを持ち出したという。

 競争力の源泉である技術や設備情報の流出は企業にとって深刻な痛手だ。社員が退職後に同業他社へ転職したり、競合する事業を立ち上げたりした場合は技術情報だけでなく、顧客ネットワークまでもが競合に利用されてしまう恐れがある。ソフトバンクの宮内謙社長兼CEO(最高経営責任者)は2021年2月4日開催の決算説明会で「ノウハウとしてずっとためてきた情報であり、許されないことだ」と怒りをあらわにした。退職社員による機密情報やノウハウの流出をどう防ぐか、企業は経営上の重大なリスクと位置づけて対策を講じる必要がある。

ログ取得は「有事の際の確認目的」

 退職社員による機密情報の持ち出しリスクに対し、ITサービス企業はどう対処しているのか。日経コンピュータは主要ITサービス企業10社に緊急アンケートを実施し、野村総合研究所(NRI)を除く9社から回答を得た。

 「退職時に秘密保持契約書を交わす」「情報持ち出しに関する教育を実施し社員の意識を高める」「貸与パソコンのログを取得する」などの対策は回答企業すべてに共通した。一方で、「退職時に貸与パソコンのログを必ずチェックする」と答えた企業は1社もなかった。

 ソフトバンクの事件では退職社員が利用していた端末のログを調査した結果、営業秘密の持ち出しに気づいた。同社はこれまで部署からの特別な申し出があった場合などに限りログを確認していたが、「今回の事件を受けて今後は退職社員全員の端末のログを調べる運用に変える」(広報)。これに対して、ITサービス企業9社は「有事の際に確認できるようにログを取得している」という運用にとどまるのが現状だ。

 システム面での対策はどうか。社外へのメールを監視する仕組みを導入している企業が多く、NECは社員が社外宛てのメールを送ると、自動的に上司のアドレスにも届く。NTTデータとTISは外部に添付ファイル付きのメールを送る際に上司を宛先に入れないと送信できない仕組みにしてあり、SCSKでは社外宛てのメールをすべて上司が管理画面から確認できる仕様にしている。

 日本IBMは退職予定者が営業秘密にアクセスしたりダウンロードしたりするとアラートが上がるようにしている。日立製作所と伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)はシンクライアントを導入し、情報が端末内に残らないよう配慮している。

表 ITサービス各社における取り組み
メール監視の仕組みを導入している企業が多い
表 ITサービス各社における取り組み
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