他システムへの切り替えが難しくなる「ベンダーロックイン」問題。行政機関で根強く残る現状の改善に向け、公正取引委員会が動き出した。他社の参入妨害など独占禁止法に抵触する行為を報告書で初めて示した。
公取委は2022年2月8日に公表した「官公庁における情報システム調達に関する実態調査報告書」の中で、ベンダーの反競争的行為があれば摘発するとした一方、発注側である行政機関にも原因があるとした。報告書ではデジタル人材の育成など行政が取り組むべき課題もまとめた。公取委の有識者会議にはデジタル庁もオブザーバーとして参加しており、公取委は同庁が主導的な役割を果たすよう期待している。
だが、そのデジタル庁ですら2021年9月の発足から競争入札が十分に機能せず既存ベンダーへの依存が続く実態が日経コンピュータの調査で分かった。行政システムでは業務知識が一部の既存ベンダーに集中し、新規参入を促す調達改革は容易ではない。デジタル庁はこの壁を乗り越えられるか。
6割が1社応札、大手4社が強い
国のシステム調達で競争原理が働いていない実態は会計検査院が2021年5月に公表した調査ですでに明らかとなっている。中央官庁が2018年度に実施したシステム調達の73.9%(競争入札による契約件数ベース)が、1社だけの入札参加による「1社応札」だった。
デジタル庁は発足当初から調達競争の活性化による既存システムのコスト削減を目指してきた。平井卓也前デジタル相は「既存システムのインフラ投資を3割は削減できる」などと意気込みを語っていた。しかし、デジタル庁がこれまで実施した調達の6割は1社応札で、従来通りの調達が大勢を占めている。日経コンピュータの集計によると、システムの設計や開発を含む主要な13の調達案件のうち2社以上の入札や契約があった案件は5件にとどまり、残る8件はすべて1社応札だった。
集計対象はデジタル庁発足後の2021年9月~2022年1月までに結果が出た一般競争入札のうち、電子調達システムで入札結果を公表した主要案件と、前身の内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室や総務省が2021年に調達し入札状況が判明している主要案件である。ガバメントクラウドのように複数企業と契約する調達も含む。
1社応札は、「第二期情報提供ネットワークシステム」の設計開発から運用保守までと環境構築などをそれぞれ落札したNTTデータとNTTコミュニケーションズ、電子調達に関わる「第二期調達ポータル更改」案件を落札したNTTデータ、「e-Gov審査支援サービス」案件を受注した富士通など。特に大規模システムに多く、いずれも更新や機能追加前の現行システムに携わっていたベンダーだった。
新規案件においても、大規模になるとNTTデータや富士通、日立製作所、NECの大手4社が強い。例えば公金受取口座登録システムはマイナンバーに強いNTTデータが受注した。
逆に2社以上が競った案件はほぼ中小規模システムだった。例えば、「事業所ベース・レジストリ 公開サイトパイロット構築・検証事業」はNTTデータと中堅ITベンダーのユー・エス・イーの2社が競い、ユー・エス・イーが技術点・価格点ともに上回って落札した。落札額の825万円はNTTデータが提示した価格の10分の1以下であり、競争を通じてコストの抑制や技術力の向上などが期待できることを示した形だ。