クレジットカードの不正利用やフィッシングの横行が深刻化しつつある。フリマアプリ最大手メルカリも2022年1~3月期決算で打撃を受けた。成長が続くEC(電子商取引)業界に冷や水を浴びせる事態となっている。
新型コロナウイルス禍による巣ごもり消費の拡大を受けて成長が続く日本のEC市場。だが足元ではひずみも目立つようになった。商品売買のプラットフォームが不正を働く温床となって利用者に被害をもたらし、運営企業の成長も阻害し始めている。
これを象徴するのがメルカリの業績変調だ。同社が2022年4月に発表した2022年6月期第3四半期の連結決算。2022年1~3月は売上高こそ385億円と過去最高を更新したものの、営業損益は29億円の赤字となった。前年同期は1億円の黒字だった。同社は2022年6月期の通期決算で45億円の営業赤字になるとの見通しも公表し、期初に掲げた目標値を下方修正した。
不正被害の穴埋めに計16億円
メルカリは業績が不調に転じた要因として、在宅時間の減少に伴う出品や購入の頻度低下の他に2つの悪質な行為を挙げた。1つはフリマアプリにおけるクレジットカードの不正利用だ。
同社によれば、カード情報を盗用して商品を購入するケースが2021年末ごろから多発。緊急対策として、不正利用の疑いがある利用者に対して、例えば出品や購入などができないような「利用制限」を広く実施した。この過程で、本来は利用制限の対象にすべきでないユーザーにも制限をかけてしまったという。結果、同社のようなマーケットプレイス型のECサイトにとって重要な成長指標であるGMV(流通総額)の伸びが鈍化した。
被害者に対する10億円の補填金も発生し、利益を押し下げた。クレジットカードの不正利用では一般に、EC事業者が本人認証サービス「3Dセキュア」を導入していれば、不正利用された代金の補償が免除される場合がある。メルカリの場合、2022年3月以前は3Dセキュアを導入していなかった。
もう1つの悪質な行為がフィッシングだ。例えば偽メール内のリンクをクリックすると本物のメルカリそっくりの偽サイトが開き、そこにIDやパスワードなどを入力させてメルカリのアカウントを奪取する。さらにメルペイの後払い決済などを利用して商品を不正に入手する、といった手口だ。
メルカリの偽サイトに誘導する手口は巧妙化している。例えば相場よりも大幅に値下げされた商品広告をSNS(交流サイト)に表示して偽サイトに誘導する。あるいは偽メールに「アカウントの利用が制限されている」「アカウントが削除される」などと不安をあおる文章や、「3000円分ポイントがもらえる」といったキャンペーンを装った文章を盛り込んでクリックさせる、といった具合だ。メルカリはメルペイにおけるフィッシング被害でも6億円の補填金を計上。カード不正利用の補填金と合わせると直近の四半期だけで計16億円もの対策コストを要したことになる。2022年4~6月期も同程度の費用を見込んでいるという。
日本クレジット協会の調査によると2021年のカード不正利用による被害額は330億1000万円。前年比で約3割増え過去最悪となった。このうち、不正入手したカード番号が使われる「番号の盗用」による被害は全体の94.4%に当たる311億7000万円に達した。