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政府が肝煎りで開発した「ワクチン接種記録システム(VRS)」。だが接種記録の入力は遅れ、一部の自治体はいまだに使っていない。転居者の接種状況の確認や接種証明の発行に支障を来す恐れがある。

 「ある市では1万人以上が漏れている」――。栃木県の福田富一知事は2021年6月5日、県下の自治体でワクチン接種記録システム(VRS)への入力が遅れている実情を明らかにした。

 VRSは、市区町村が住民1人ひとりの接種状況を正確かつ迅速に把握するため、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室(以下、IT室)が開発したシステムだ。自治体の接種会場や医療機関で住民が接種を受ける際、IT室が配布したタブレット端末などを利用して接種情報を読み取り、VRSに入力する。

 ただVRSへのデータ入力に法的な義務はない。IT室は接種状況を迅速に把握するため、「全自治体の利用が前提。なるべく迅速に入力してほしい」とするが、自治体によっては接種から1カ月ほど入力が遅れるケースがあり、いまだにVRSを使っていない自治体も存在する。このままではVRSが「無用の長物」となってしまう懸念がある。

実態と異なるダッシュボード

 VRSへの入力が遅れている理由は、手間がかかることだ。個別接種を実施している医療機関で入力が進んでいなかったり、市役所などが医療機関から接種済みの予診票を回収して代行入力したりしている。接種自体は進んでいるものの、「とにかく入力の人手が足りない」(ある自治体の担当者)。医療機関から予診票を回収する手間などもネックとなっている。これではリアルタイムの接種状況を把握できているとは言い難い。

 問題は入力の遅れだけではない。IT室は「これまでに約99%の自治体がVRSにログインしている」とするが、わずかながら未利用の自治体もある。

 IT室がVRSへの入力データを集計し、毎日更新する「接種状況ダッシュボード」。これによると、冒頭の栃木県は65歳以上の高齢者の1回目の接種者数が6月9日時点で8万6223人、接種率が15.5%と全国平均の23.7%を大きく下回り全国最下位となっている。しかし、栃木県感染症対策課はこの数値について「入力の遅れは無視できないほどで、実態と乖離(かいり)している」と説明する。

政府の接種状況ダッシュボード。VRSへの入力に基づいた都道府県ごとの接種数や接種率が分かる(画像出所:内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室)
政府の接種状況ダッシュボード。VRSへの入力に基づいた都道府県ごとの接種数や接種率が分かる(画像出所:内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室)
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バーコードでリアルタイムに入力

 もっとも、VRSへの入力がネックになることは当初から分かっていた。IT室はスムーズな入力を進めるためタブレット端末を自治体や医療機関に配布し、接種後にその場で入力するよう促してきた。具体的には、タブレット端末のカメラで予診票に貼られた接種券の「OCRライン(接種情報を記録した番号)」を読み取り、インターネット経由で自動入力する。4月6日には河野太郎規制改革相が自らデモンストレーションを披露し、「3秒で終わる」と入力の手軽さをアピールした。

 ところが、4月12日に65歳以上の高齢者を対象としたワクチン接種が始まると、タブレット端末のカメラでOCRラインを読み取りにくい不具合が頻発。IT室はタブレット端末の読み取りスタンドを配布して対応したが、根本的な解決には至らなかった。