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新型コロナ対策の1つであるテレワークの実施率が2割と低迷している。「コロナ慣れ」や企業存続の危機感などから出社勤務が増加傾向にある。テレワークに対応できないままでは競争力や採用力の低下が懸念される。

 2020年春以降、新型コロナウイルス対策の1つとして、政府や自治体が企業に導入を呼び掛けてきたテレワーク。しかし、実施率が全国で2割と低迷する実態が様々な調査結果から明らかとなっている。例えば日本生産性本部が20歳以上の全国の雇用者1100人を対象に実施している「働く人の意識調査」によると、テレワーク実施率は最初の緊急事態宣言下の2020年5月時点で31.5%だった。同年7月の第2回調査以降は、2021年4月の第5回調査まで2割前後で推移している。

 テレワーク実施率が高い東京都でも中小企業で変化が起こっている。東京商工会議所が2021年2月に発表した調査結果(東京23区の中小企業、約1400社が回答)では66.2%がテレワークを実施していた。ただ1日当たりにテレワークを実施している社員の割合を尋ねたところ、81~100%とした企業は2020年5~6月調査の21.2%に対し、2021年1~2月調査では11.1%にとどまった。一方、同20%以下とした企業は2020年5~6月調査で18.9%だったが、2021年1~2月調査で29.8%と増えている。

低迷の背景に「コロナ慣れ」

 テレワーク実施率が低迷する背景には「コロナ慣れ」や企業存続の危機感がある。テレワークの調査も実施しているパーソル総合研究所の小林祐児上席主任研究員は、「企業はテレワークのみで業務を回すのが難しいことから、2020年の段階では出社が必要な業務を停止したり延期したりするケースが多かった。しかし2021年に入り、新型コロナ禍の中での出社などに慣れてしまったのか、仕事を止める判断が企業にみられない」と説明する。

 中小企業では「社員が新型コロナに感染するのは避けたいと思いながらも、出社してもらわないと営業活動などがままならず、企業の存続が危うくなるとの懸念が経営者にある。政府や都などによる支援策や、金融機関の借入金でしのぐにも限界が来ている」(東京商工会議所の長嶋収一中小企業部副部長・IT活用推進担当課長)。

 さらに長嶋副部長は、「新型コロナの感染拡大が収まってきた米国や中国などに向けた事業で大手企業が業績を改善させている。それに伴って取引先の中小企業もテレワークではなく出社して仕事を進めざるを得なくなっている」と指摘する。中小企業の場合、テレワークでできる仕事と出社が必要な仕事を兼務しているケースが大手企業に比べて多いといった事情もある。

なし崩し的にやめていく恐れ

 テレワーク実施率の低迷が続くと、どんな影響が出てくるだろうか。パーソル総合研究所の小林上席主任研究員は、企業のグローバル競争力の低下を懸念する。「テレワークが普及したのは世界各国と同じだが、日本の企業はこのままではなし崩し的にテレワークをやめていきそうだ。オフィスでの仕事にこだわることで、業務のデジタル化などが進まず、事業展開のスピードや投資効率の面で後れを取る可能性がある」(同)。

 テレワークの動向に詳しいパソナリンクワークスタイル推進統括の湯田健一郎氏は、事業推進力や採用力の低下につながるとみる。「テレワークに取り組む場合、紙の文書を電子化するといった必要が出てくるが、これを契機に処理の自動化など業務を効率化できる。テレワーク導入でこうした取り組みを進める企業と、そうでない企業とでは数年で大きな差が出る。一方、就職活動でテレワークができる企業かどうかをみる学生が増えている。テレワークの制度などがない企業は採用力が落ちてしまう」と指摘する。