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2020年6月10日に米IBMのクラウドサービスで発生した大規模障害。引き金となったのは「誤ったルート(経路情報)広告」だった。専門家は同様の障害が「再び起こる可能性がある」と警鐘を鳴らす。

 「みずほダイレクトにつながらない」「みずほ銀行でスマホから振り込みができない」――。2020年6月10日の朝、Twitter(ツイッター)にはみずほ銀行のインターネットバンキングサービス「みずほダイレクト」やスマホ決済サービス「みずほWalletアプリ」がうまく使えないという書き込みが相次いだ。ほぼ時を同じくして、他の金融機関のインターネットバンキングサービスでもつながりにくかったり、処理が進まなかったりする状況が発生した。

 住信SBIネット銀行では送金アプリ「Money Tap(マネータップ)」を使った送金や、「PayPay」「LINE Pay」といった決済サービスで同行口座からの残高チャージができない状態に陥った。山形銀行や八十二銀行など複数の地方銀行でもスマホアプリを活用したインターネットバンキングの一部機能が一時的に使えなくなった。その日は金融機関の繁忙日である「五十日(ごとおび)」であり、影響は大きかった。

IBMで世界規模のクラウド障害

 住信SBIネット銀行と山形銀行の共通点は、米IBMのクラウドサービス「IBM Cloud」を利用していたことだ。みずほ銀行や八十二銀行も明確にはしていないが、IBM Cloudのユーザーとみられる。

 6月10日の早朝にIBM Cloudでシステム障害が発生し、多くのユーザーで問題が起こっていた。障害の規模は大きく、IBM Cloudの稼働状況を表示するWebサイトにはサービス停止中を示す赤いアイコンが画面中にびっしりと並んでいた。停止中のサービスには「VPN for VPC」「Kubernetes Service」「Content Delivery Network」など主要サービスが勢ぞろいしていた。

写真 システム障害の発生を知らせる「IBM Cloud」のWebサイト
写真 システム障害の発生を知らせる「IBM Cloud」のWebサイト
金融機関など利用企業に大きな影響が出た(出所:米IBM)
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 影響を受けた地域も広かった。東京だけでなく、ワシントンD.C.やダラス、ロンドン、シドニー、フランクフルトといったリージョンで、IBM Cloud上のサービスに接続できないといった状況に陥った。IBM Cloudは同日の午前10時39分に復旧し、各金融機関のサービスも復旧し始めた。

 日本IBMは6月10日の午後5時55分、同社サイト「IBM ソリューション ブログ」で大規模障害の原因を明らかにした。外部のネットワークプロバイダー(接続事業者)が「誤ったルート広告」を流したことが障害を引き起こしたとの説明だった。ここで言うルートとは、インターネット上でデータ(IPパケット)を転送する経路のことだ。ルート広告とは、IPパケットをどのような経路で送るかを決める情報(経路情報)を広く知らせる処理を指す。

 日本IBMは誤ったルート広告とそれが引き起こした障害について、「IBM Cloud上のサービスへの経路情報として誤ったルート広告が伝播(でんぱん)され、その結果としてネットワークの輻輳(ふくそう)が生じ、IBM Cloudを利用するインターネットのネットワークに障害を引き起こした」(広報)と説明している。