リモートワークや巣ごもり消費への対応もあり、DXは必須の取り組みとなった。だがこの結果、DXを推進するデジタル人材の不足が深刻化している。このままではDXで海外勢に大きく後れを取り、競争優位を失いかねない。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の盛り上がりは数字にも表れている。情報処理推進機構(IPA)が2021年4月22日に公表した「デジタル時代のスキル変革等に関する調査」では、DXに取り組んでいると回答した企業の割合は、2019年度は41.2%だったのに対し、2020年度は12.0ポイント増の53.2%と半数を超えた。以前は大企業が先行していたが、「2020年度は企業規模による取り組みの格差が縮小傾向にある」(IPA)。社員数百人程度の企業でDXに取り組む例が大幅に増え、裾野が広がっていることが分かる。
DXに取り組もうとする企業の意欲は2021年から2022年にかけても引き続き旺盛となりそうだ。例えば日本銀行が2021年7月に公表した短観(全国企業短期経済観測調査)では、新型コロナ禍にもかかわらず、今後予定しているソフトウエア投資額は大企業で14.3%増、中堅企業で14.5%増と、企業規模を問わず2020年度よりも増やすという結果になっている。
人材が足りなすぎる
DXが進めば、日本の企業の業務効率が高まるほか、付加価値の高いビジネスの創出にもつながる。日本全体の競争力向上にも寄与しそうだ。だが、ここにきてその推進役となる「デジタル人材」の不足がDXの阻害要因として無視できなくなってきた。
IPA調査ではDXを推進するIT人材の過不足についても聞いている。IT人材が「大幅に不足している」「やや不足している」という回答が合計で9割を超えており、特に「DXで成果が出ていない」と考えている企業の52.9%が「大幅に不足している」と回答した。
人材不足が解消されずDXがうまく進められない企業はどんな事態に陥るのか。「短中期的には競合企業にじりじりと負けてしまうリスクがある」。IPAの人材プラットフォーム部スキルトランスフォーメーショングループに所属する東沢永悦氏は指摘する。
このリスクは顕在化しつつある。ともに同業態の飲食大手であるA社とB社は、一方は新型コロナ禍で赤字に沈み、もう一方は大幅黒字になった。何が勝敗を分けたのか。黒字のB社幹部は「デジタル導入の差」とみる。
両社とも新型コロナ禍でテークアウトを強化した。だが、急にテークアウトを拡充して現場が混乱したA社に対して、B社は以前からシステムで店舗ごとの従業員数や材料の在庫量などをリアルタイムで管理し、ビッグデータ分析から日々の需要を予測したり店舗の混み具合からテークアウト商品をつくり終える時間を見積もったりするシステムを運用していた。
システムに合わせて店舗の業務プロセスも変えていたという。B社幹部は、「ネット注文システムを強化した企業は多いが、業務を支える後ろの仕組みが伴わなければ逆効果になる」と話す。