全国20の政令指定都市の少なくとも4割がIT関連業務の委託先調査に乗り出している。兵庫県尼崎市で発生した、全市民情報が入ったUSBメモリーの紛失事案を受けてのものだ。尼崎市の事案は「もたれ合い」になりかねない地方自治体とITベンダーの関係を再考する契機になりそうだ。
尼崎市を巡っては、同市がBIPROGY(旧日本ユニシス)に委託した「住民税非課税世帯等に対する臨時給付金支給事務」に関連し、全市民の住民基本台帳の情報(46万517人分)や生活保護受給世帯・児童手当受給世帯の口座情報(それぞれ1万6765件、6万9261件)などの電子データが入ったUSBメモリーの所在が、一時分からなくなった。現在、同市とBIPROGYの双方が第三者委員会を設置し、原因などの調査を進めている。
調査の過程で、焦点の1つになりそうなのが、尼崎市とITベンダーの関係である。USBメモリーを紛失したのは、再々委託先の社員だった。IT業界の「悪弊」といえる多重下請け構造の問題がここでも顔を出した格好だ。
8市が委託先調査を実施へ
同事案を受け日経コンピュータは、政令市がシステム開発や運用保守、市民データを取り扱うIT関連の各種業務における委託先をどう管理しているかを調べるため、緊急アンケートを実施した。回答期間は2022年7月19日から8月1日までで、全20政令指定都市のうち16市から回答を得た。
調査では、尼崎市のUSBメモリー紛失をきっかけに、委託先の実態を改めて調査したかを聞いた。全政令市の4割に当たる8市が「はい(改めて調査した)」「これからする」と回答。「検討中」と回答した3市を加えると、政令市の過半に達する。
調査を改めて実施した福岡市では、再々委託先や再々々委託先を「再委託先」として記載していた事実が見つかったという。同市は調査結果を受けて、再々委託などの正確な内容や合理的な理由、業務内容が再委託業務の全部あるいは主たる部分でないこと、再々委託先などが対象業務を履行する能力を備えていることを確認している。
京都市は2022年7月以降、委託先調査を順次実施している。尼崎市でUSBメモリー紛失が発生した「住民税非課税世帯等に対する臨時給付金支給事務」については、既に委託先の実態調査を済ませており、同市側が把握していない再委託や再々委託などは見つからなかった。
併せて同市は2022年6月24日付の全庁通知で、各部門に対して、情報セキュリティーの対策基準の順守と受託事業者も含めた周知徹底を指示している。部門ごとに対策基準の順守状況などの点検も進めており、「必要に応じて、当室による現地訪問や担当者へのヒアリングなどをして、問題がないことを確認する予定」(情報化推進室)としている。