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既に大半の自治体で端末の整備が完了したGIGAスクール構想。土台は整ったが、肝心の活用状況で学校間の格差が生じている。学びの転換に生徒が取り残されないための対策が急務だ。

 パソコンやタブレットなどのICT端末を活用して学びの転換を図るGIGAスクール構想が本格始動して2年目を迎える。文部科学省によると、2021年7月末時点で全自治体の96.2%が端末を整備済み。全国の公立の小学校の96.2%、中学校の96.5%が全学年または一部の学年で利活用を始めている。

 一見順調に映るが、教育現場は多くの課題を抱えたままだ。デジタル庁などが2021年9月に公開したアンケート結果によると、例えば学校では「ネットワーク回線が遅い」「教職員端末が古い・未整備」といった課題が明らかになっている。中でも有識者が懸念するのは、学校間における活用状況の格差だ。GIGAスクール構想は従来型の授業から脱却し、学習データの分析などを通じて生徒一人ひとりに最適な学びを実現する狙いがある。学校間の格差をこのまま放置すれば、同構想が目指す「Society 5.0時代に向けた人材育成」が絵に描いた餅になりかねない。

「探求的な学び」にほど遠い現状

 文科省が2022年4月に実施した調査によると、ICT機器を活用した授業の頻度は増えており、「ほぼ毎日」と回答した小中学校は前年度比で約10ポイント増加した。その一方、文科省の中村義勝初等中等教育局学校デジタル化プロジェクトチーム課長補佐は「依然として学校間で活用状況の格差が大きい」と認める。経団連EdTech戦略検討会の座長を務める小宮山利恵子スタディサプリ教育AI研究所所長は「学校間、自治体間、さらに先生の間でも端末の活用状況には格差がある」と指摘する。

 格差は端末の用途でも生じている。文科省が前述の調査で場面ごとのICT活用頻度を聞いたところ、ネット検索など生徒が自分で調べる場面で端末を使う(週3回以上)と回答した小学生は62.0%に対し、教職員とのやり取りは同45.5%、児童生徒同士のやり取りは同31.5%だった。GIGAスクール構想の狙いは、新しい学びの実現にある。従来のように教員から一方的に知識を与えるのではなく、今後は生徒同士の協同による「探求的な学びを実現するフェーズ」(群馬県下仁田町などにおけるICT活用を支援する未来教育デザインの平井聡一郎代表社員)に移っていくべきだが、ほど遠い状況にある。

図 GIGAスクール構想における場面ごとのICT活用頻度
図 GIGAスクール構想における場面ごとのICT活用頻度
コミュニケーションツールとしての活用頻度はまだ低い(出所:文部科学省が発表した「令和4年度全国学力・学習状況調査の結果」を基に日経コンピュータ作成)
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 小宮山所長によると、先進的な自治体では「数学や英語など積み上げ型と呼ばれる教科の授業時間を端末の活用で減らした例もある。短縮で得られた時間をこれまで学校で対応できていなかった起業家教育などの探求的な学びに活用している」という。生徒の学習機会の差は確実に広がりつつある。