インターネット広告業界で不正が後を絶たない。広告詐欺の推定被害額は国内だけで年数百億円以上との見方がある。現状は悪意のある媒体社などとの「いたちごっこ」の状況が続く。
2019年は日本のネット広告業界にとって節目の年だった。ネット広告費が地上波テレビ広告費を初めて上回った。電通の「日本の広告費」によると、ネット広告費は2018年比で約2割増えて2兆円を突破した一方、広告の「花形」だった地上波テレビ広告費は微減の1兆7000億円強にとどまった。ネット広告費は6年連続の2桁成長で、今後も高い伸びが期待できそうだ。
ネット広告市場の急拡大に伴い、そのひずみもあらわになってきた。代表例がアドフラウドをはじめとしたネット広告不正だ。政府が2020年7月に閣議決定した「成長戦略実行計画」でも、デジタル広告市場の透明性確保のため、アドフラウドなどへの対応が論点の1つに浮上している。ネット広告の不正対策を手掛けるKDDIグループのMomentum(モメンタム)の調査では、リアルタイムに広告枠を取引する「運用型広告」に占めるアドフラウドの割合が2018年時点で8.6~19.2%に達した。調査によってアドフラウド率にばらつきはあるが、少なく見積もっても日本市場だけで年数百億円以上の広告費がかすめ取られているとみられる。
ネット広告の仕組みを悪用
ネット広告の仕組みは地上波テレビなどと比べて分かりにくい。ネット広告の約8割を占める運用型広告の場合、消費者があるWebサイトを訪れると、媒体社から広告のリクエストが入る。そのリクエストに対し、広告主側が入札をかけ、配信する広告が決まる。こうした一連の取引を広告主向けのDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)や媒体社向けのSSP(サプライ・サイド・プラットフォーム)といった仲介システムを介して、リアルタイムに行う。広告主にとっては、消費者の趣味・嗜好に合わせて広告を出し分けられる半面、どんなWebサイトに広告を配信したのか確認しづらく、不正が横行する一因になっていた。