全2517文字
PR

自治体は2025年度末までに「標準準拠システム」に移行する必要がある。仕様書が出そろい、各ITベンダーは開発作業を本格化させ始めた。ただ、自治体からはシステム移行費用の高騰を危惧する声が聞こえる。

 「これまでシステム更改のたびに(システムの開発や保守運用について)競争入札をしてきたが、標準準拠システムへの移行はこれまで(保守運用を)委託していた事業者と随意契約を結んで進めざるを得ない」。埼玉県戸田市の大山水帆企画財政部次長兼デジタル戦略室長(CDO)はこう話す。

 随意契約しか選べない理由は、ITベンダーの人的リソースが逼迫しており、競争入札をしても、過去に委託した事業者を含めてITベンダーが参加しないからだという。「標準化の目標は『ベンダーロックイン』を回避することだが、実際には新たなベンダーロックインにつながるのではないか」と大山氏は憤る。

 デジタル庁は自治体に対し、住民基本台帳や国民健康保険といった20業務で使う基幹業務システムを2025年度末までに標準準拠システムに移行させるよう求めている。標準準拠システムへの移行により、毎年5000億円以上とされる自治体情報システムの支出について、そのうち保守運用費などを2018年度比で3割削減する目標を掲げている。

 コストを下げられるとする根拠は主に3つある。まず各自治体の業務のやり方に合わせてシステムを改修するといった個別カスタマイズが原則不要になる。次に、各ITベンダーの標準準拠システム同士であればシステム移行がしやすくなるため、「ベンダーロックイン」を避けられる。最後に、システム基盤にはデジタル庁が整備するマルチクラウドの「ガバメントクラウド」を使うため、集約効果によるコスト減を期待できる。

図 自治体システムの標準仕様書を作成する狙い
図 自治体システムの標準仕様書を作成する狙い
業務効率化や住民サービスの維持・向上につなげる(出所:総務省の資料を基に日経コンピュータ作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 標準準拠システムへの移行の流れはこうだ。まず20業務を所管するそれぞれの府省庁が標準仕様書を作成する。前述の通り、2022年8月末に出そろった。次に、ITベンダーは1年から1年半をかけて標準仕様に準拠した基幹業務アプリケーションなどを開発し、ガバメントクラウド上に構築する。最後に、2023年度から2025年度末までの「集中移行期間」に、全自治体が一斉に業務システムを移行する。

 移行作業の集中によりSEが不足するとの懸念は根強く、取引のない自治体から新規に移行作業を請け負うITベンダーは少ないとみられている。そもそも移行をスムーズに進めたいのであれば既存システムを保守運用するITベンダーに分がある。既存システムをよく知るため、標準準拠システムとの「差」をより早く明確につかめる見込みがあるからだ。

 こうした事情から、戸田市をはじめとして複数の自治体は標準準拠システムへの移行作業について、既存システムを保守運用するITベンダーと随意契約を結ぶことを検討しているわけだ。「標準準拠システムへの移行作業を既存ITベンダーと随意契約して依頼するのは理解できる」と、総務省の自治体システム等標準化検討会の座長などを務める武蔵大学社会学部の庄司昌彦教授も語る。

札幌市を悩ませる違約金約70億円

 課題は移行費用の高騰だ。移行集中によるSE不足に加え、随意契約が増えることで、競争原理が働かず、移行費用が高止まりするとみられている。

 さらに、自治体によってはITベンダーなどと既存システムの利用契約を長期にわたって結んでいる。そうした自治体が標準準拠システムに移行するには、既存システムの契約満了前に解約せざるを得ず、違約金が生じる恐れがある。

 例えば札幌市は約70億円の違約金などが生じる可能性があると表明している。札幌市の場合、基幹系システムは第三セクターの札幌総合情報センターがハード/ソフト資産などを保有しており、市は同センターにシステム利用料を支払っている。

 コスト効果を高めるため、2033年度末まで継続利用する契約を結んでいる。仮に「ガバメントクラウドに移行するので従来システムを利用できなくなった」などの理由で2025年度末で契約解除した場合、約70億円の違約金などが生じる可能性があるわけだ。