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仕入税控除に必要な「インボイス制度」の開始まで1年を切った。だが売上高1000万円以下の事業者の6割が「特に何もしていない」。放置すればインボイス制度に準じた取引が広まらない恐れがある。

 消費税額を正確に計算し、仕入れ時の税を控除するのに必要な「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」。2023年10月の制度開始まで1年を切ったが、個人事業主や中小・零細企業の準備が進んでいない。大多数が制度の内容を知らなかったり対策に動いていなかったりするのが現状だ。

 インボイス制度への対応には経理のIT化が不可欠だが、ITに不慣れな事業者が多いことが導入を阻む壁になっている。制度対応が今後見込まれながら経理のIT化が不十分な事業者は70万人に達するとみられ、取引先への波及を含め影響は小さくない。インボイス制度に準じた取引が日本経済全体に広まらない懸念が強まっている。

「実態として経理のIT化が必須」

 インボイス制度が導入されると、消費税の納付義務がある「課税事業者」は消費税の負担が現在より増えるケースが出てくる。消費税の納付が免除されている「免税事業者」から商品やサービスを仕入れる取引では、仕入れ代金に含まれる消費税を控除できなくなるためだ。そこでインボイス制度では、現行制度で免税事業者である課税売上高1000万円未満の個人事業主や企業が自らの判断で課税事業者に転換できるようにしている。

 ただ、転換しようとすると、表計算ソフトや手書きの帳簿では管理が追いつかず、経理・会計ソフトを導入するなど「実態として経理のIT化が必須になる」(日本商工会議所)。買い手となる仕入れでは取引先から受け取ったインボイス(適格請求書)や領収書から消費税額を税率ごとに帳簿に記帳するなど、インボイス制度に合わせた帳簿作成が必要になるからだ。

 国税庁によると、2020年度の確定申告で事業所得を申告した個人(個人事業主にほぼ相当)は約180万9000人。この4割弱に当たる約70万人が、税制上の優遇措置がない代わりに複式簿記を使わずに簡便に税を申告できる「白色申告」を採用している。一部の零細企業も白色申告を採用している。

 税務当局は、複式簿記で帳簿を作成する手間は掛かるものの、税控除額の枠が広がるメリットがある「青色申告」への転換をこれまでも促してきた。それでも約70万人が白色申告を採用する理由は、経理ソフトを導入しておらず、帳簿作成や申告書類の簡便さを優先しているからだとみられる。

「特に何もしていない」が大多数

 中小・零細企業や個人事業主がインボイス制度開始を機に免税事業者から課税事業者に転換するならば、早い段階で経理業務の見直しを検討する必要がある。さらに2024年1月からは改正電子帳簿保存法が完全施行され、少なくともPDFを含めて電子データで受け取った請求書などの証憑(しょうひょう)書類は電子保存が義務付けられる。

 ITベンダーはインボイス制度対応のサービスの準備を進めている。零細企業や個人事業主ならば改正電帳法に対応した書類保存の機能を含めても月額数万円でインボイス制度に対応できる見通しだ。安価なサービスだと月額2000円程度で消費税申告に対応できるとする。

 だがそれでも、制度対応への動きは鈍い。中小・零細企業や個人事業主で構成する日本商工会議所が2022年5~6月に、会員におけるインボイス制度導入の準備状況を調査したところ、売上高1000万円以下の会員層では「特に何もしていない」割合が60.5%を占めた。対して、「請求書等発行システムや経理・受発注システムの入替・改修等を行っている」割合は1.4%だった。

図 インボイス制度導入への準備状況(2022年5~6月調査)
図 インボイス制度導入への準備状況(2022年5~6月調査)
売上高1000万円以下の6割が「何もしていない」(出所:日本商工会議所)
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 全回答者を通じても「特に何もしていない」割合は42.2%に達し、「請求書等発行システムや経理・受発注システムの入替・改修等を行っている」割合は7.0%にすぎなかった。日本商工会議所は調査結果などを基に、「このままインボイス制度を導入すれば大混乱になる」として、制度の見直しや導入時期の延期を訴えている。