全3087文字

電子データで受け取る請求書の電子保存を義務付ける改正電子帳簿保存法(電帳法)。完全施行まであと1年ほどだが、4割の企業が何の対応もしていないのが現状だ。政府は紙での保存も容認する「特例」を設ける見込みだが、電帳法が骨抜きになりデジタル化が逆回転しかねない。

 2024年1月の完全施行が迫る改正電子帳簿保存法(電帳法)が骨抜きになる懸念が浮上した。同法は電子データで受け取る請求書の電子保存を義務付けているが、政府・与党は同法への対応が遅れる企業を対象に「特例」を設け、電子に加えて紙での保存も容認するとの方針が見えてきたからだ。

 背景には、中小企業を中心に同法に準拠した経理業務の見直しやシステムの導入が進んでいない実態がある。同時期に「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」が始まることもあり、企業の負担を減らす狙いもあるようだ。

 特例は対応作業に手間取る企業には救済措置になり得る一方、義務化という強制力がなくなれば請求書データを電子保存する動機は薄れる。結果として紙文化の温存につながり、経理業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を通じた生産性の向上といった機運までそがれかねない。

「特例」で紙保存も容認の報道

 請求書データ管理、対応遅れの企業は紙も容認――。2022年11月25日、日本経済新聞がこう報じた。記事によれば政府・与党は、メールで受け取った請求書データをパソコン内の専用フォルダーに保存するなどの条件で、紙での保存を容認する方針という。

 タイムスタンプの付与や日付・金額・取引先による検索といった改正電帳法が求める要件も緩和する。政府・与党が2022年12月にも取りまとめる2023年度の与党税制大綱に盛り込む方向で検討しているという。

 記事では請求書データの紙保存には、税務当局が特例として認める必要があると報じている。特例には相応の理由が必要としつつも、特例の内容は幅広く認める。資金を手当てできず会計ソフトを導入するのが難しいといった理由も特例に含めるという。

 もともと政府は2022年1月施行の改正電帳法において、メールへの添付やWebサイトからのダウンロードなどで受け取った請求書などの証憑(しょうひょう)書類データについて電子保存を義務付けた。従来認められた紙での保存は原則として不可になった。ただ2023年12月31日までは2年間の猶予期限があり、請求書データを印字した紙で保存することも容認している。

 これに対し、中小企業の経済団体である日本商工会議所は、かねて改正電帳法やインボイス制度の緩和や簡素化を求めてきた。中小企業を中心に同法に準拠したシステム整備が進んでいない実態があるからだ。

 実際に日本商工会議所と東京商工会議所が2022年9月に発表した調査結果によると、請求書データの電子保存に向けたシステム整備は小規模企業ほど進んでいない。「内容をよく理解しておらず、何もしていない」との回答は全体で43.0%、売上高が1000万円以下の事業者では56.8%と過半を占めた。

図 改正電子帳簿保存法への対応状況(電子取引のデータ保存)
図 改正電子帳簿保存法への対応状況(電子取引のデータ保存)
売上高1000万円以下の半数以上が「何もしていない」(出所:日本商工会議所、東京商工会議所)
[画像のクリックで拡大表示]

 同法への対応に関する問題点を聞いたところ、事務やシステムを整備する負担の大きさを挙げる意見が目立った。「社内の体制が不十分(41.4%)」「要件を満たす保存方法の事務負担が重すぎる(28.2%)」「システム投資コストが高すぎる(11.5%)」などである。

 多くの中小企業にとって改正電帳法への対応で発生する作業やコストは、売り上げに直結しない余計なものと映るようだ。実情を省みずに電子保存を義務付ければ、紙の請求書しか受領しないように業務プロセスを統一するなど「デジタルからアナログへの逆行が起こりかねない」(日本商工会議所)。