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自社の既存技術やノウハウを価値とするアイデアメーキングはよくある。課題と活用シーンのリストアップ、優先順位付けを繰り返して事業を絞り込む。Web勤怠管理システムを新規事業に選んだ実例から、その勘所を紹介する。

 本連載では、企業の継続と発展に重要となる新規事業を立ち上げるための「事業企画力」を身に付けていきます。顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)に向け、システム開発に従事している、あるいはIT系企業に勤めている皆さんのスキルや経験を生かして、ぜひ新規事業に取り組んでいただければと考えています。

「提供価値」からが最も多いパターン

 システム開発を中心とする企業や部署で新規事業を企画する場合、最も多いのが「提供価値からのアイデアメーキング」です。筆者が立ち上げたり、支援したりした事業も、ほとんどがこの方法から企画した事業です。システム開発に限らず、製造業などの企業や部署にとっては、つくったモノ、ノウハウや技術に対する思い入れがあるため当然といえます。

 しかし前回強調したように、顧客の成果を先に検討するのが鉄則です。提供側の思い入れがある製品やサービスであっても、それを使う顧客にとって意味がなければ事業として成り立ちませんし、顧客が実際に導入しなければ、これも成り立ちません。逆にいうと、ターゲットユーザーや販売方法を含むビジネスモデルをしっかり設定すれば、提供価値を基にした企画で事業化し、収益を上げることができるのです。

 今回以降、提供価値からのアイデアメーキングとビジネスモデル作成について、筆者がゼロから立ち上げた勤怠管理パッケージの事業を主な具体的事例として解説していきます。リアルな内容を臨場感あふれる形で紹介しますので、楽しみながらお読みください。

請負開発事業からの脱却

 筆者はかつてエンドユーザー企業の情報システム子会社に在籍し、親以外の企業向け開発事業、いわゆる「外販」を担当していました。大手SIerの下請け開発に始まり、エンドユーザーへ直接提案して請負開発を行うSI事業を立ち上げました。ところが苦労してスクラッチで開発する割に利益率が低く、トラブル案件があれば積み上げた利益が吹っ飛んでしまうのが悩みでした。

 最も課題だったのは、事業拡大には開発メンバーを増やすか、下請けの開発企業をたくさん使うしかないという、まさにSI事業の構造そのものでした。そこから抜け出すには自社がソフトウエアメーカーになるしかないと決意し、ツールやパッケージの領域に踏み込み、いくつか事業を立ち上げたのです。その中の1つが勤怠管理パッケージ事業でした。

 20年以上前、ビジネス分野に拡大していたWebテクノロジーを企業の社内システムに取り入れ始める動きが活発になりました。そのときまでクライアントアプリケーションで開発されていた使い勝手の良いシステムが、ブラウザーをベースとするWebアプリへと移行すると共に、操作性の悪化が問題となってきたのです。

 筆者はWebシステムに特化した開発チームを立ち上げ、コンサルばりの高単価でシステム開発を請け負い、高収益を上げていました。チームは操作性の問題を認識し、Web2.0とも呼ばれたリッチクライアントテクノロジーを利用することでその課題を解決する開発も手掛け始めました。

 次第に同技術の価値の高さを認識し、それを取り込んだパッケージソフトを作れば「メチャクチャ売れるのではないか?」として事業企画を進めることにしたのです。これがまさに「Webブラウザーベースのアプリにクライアントアプリと同等の操作性を実現する」という明確な提供価値をベースとした事業企画といえます。