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製品・サービスの提供方法よりも顧客の成果が何かを先に検討する。成果の質と量で対価が決まるため、確信を持てるまで議論し、設定する。提供方法の検討では、販売ストーリーを必ずつくろう。

 本連載は、新規事業を立ち上げるための「事業企画力」を身につける方法をステップ・バイ・ステップでお伝えします。顧客企業のDX(デジタル変革)のため、システム開発に従事している、あるいはIT系企業に勤めている皆さんのスキルや経験を生かして、ぜひ新規事業に取り組んでいただければと考えています。今回は顧客の成果を起点にしたビジネスモデルづくりのポイントを取り上げます。

顧客の成果を先に検討する

 あなたはアイデアメーキングにてターゲットユーザーを選定し、そのユーザーの課題と解決策を設定したとします。つまり「活用シーン」が決まりました。次にビジネスモデルを設定します。必要な要素のうち「どのように」、すなわち製品・サービスの提供方法を検討します。その際、もう1つ重要な要素として、顧客の「成果」も設定しなくてはなりません。

 提供方法と成果のどちらを先に検討すればいいのでしょうか。筆者は「成果」を先にすることをお勧めします。ロスが少なくなるからです。

図 提供方法から成果を検討する場合とその逆を比較
図 提供方法から成果を検討する場合とその逆を比較
まず顧客の成果から検討する
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 詳しく説明しましょう。提供方法についてはある程度パターンがあるため検討しやすく、また一度設定した提供方法を検証した結果、それに対して課題が見つかっても解決策や回避策がある場合が多いのです。逆に、成果については検証後に見込みが小さいと結論付けられた場合、成果を増やす解決策や回避策はほとんどありません。そのため、最初に提供方法を工数と時間をかけて設定した後に、小さな成果しか生まないと結論付けられれば、その活用シーンをベースにしたビジネスモデルの検討は中止するしかありません。

 では、成果を検討するとはどんな作業でしょうか。それは「そのシステムやサービスを導入した結果、最終的に実現したいのは何か」を明確にすることです。ここで「システムを導入したのは、前に設定した課題を解決することではないのか?」と思う読者も多いでしょう。答えは「ノー」です。

 例えば、生産ラインのある作業工程で手間がかかりすぎているため、その課題をシステムで解決したところ、作業工数を50%削減できたとします。その作業については労務費が半減できたことになります。

 では、成果は、労務費の削減でしょうか?いいえ違います。工場の生産ラインでの労務費は製造原価の一部の要素にしかすぎず、製造原価も事業収益の構成要素の1つにしかすぎません。ましてや特定の作業工程だけの労務費となると与える影響はわずかです。

 ターゲットユーザーの事業収益構造で製造原価の割合が高い場合は、製造原価の削減を成果として設定できる可能性がありますが、このように課題から成果まですっきりつながることは少ないです。ほとんどが最終的に実現したいこと(成果)のために、業務フローの変更、体制および役割の変更などの変化が必要となります。そして、変化できない理由(課題)の解決のためにデータやITの利活用、すなわち事業で提供するシステムやサービスを使ってもらうのです。