韓国や米国では一足先に5Gの商用サービスが始まっている。両国の展開方法は日本での5G展開を占う参考になる。基地局や端末のビジネスには米中摩擦の影響が垣間見える。
韓国の通信大手3社であるKT、SKテレコム、LG U+は2019年4月に5Gの商用モバイルサービスを始めた。3社合計の5G契約数は8月までに200万件を超え「9月上旬に300万件に達した」との報道もある。
「アンテナの設置密度は十分ではないが、3社が競うようにソウルを中心に5Gのエリアを広げている。3社の販売競争も激しい」(情報通信総合研究所の岸田重行上席主任研究員)。
普及を後押しするのが端末と通信料だ。端末については韓国サムスン電子の「Galaxy S10 5G」といった上位機種から「Galaxy A90 5G」のような中位機種までが出そろっている。
韓国は日本と同様に政策によって端末代と通信料を分離している。通信会社が通信料を原資に端末価格を割り引く販売方法は規制されている。しかし5Gについては規制が緩和され、端末の価格が安くなっている。
野村総合研究所の亀井卓也ICTメディア・サービス産業コンサルティング部上級研究員は、これらの施策により「ハイエンド層だけでなく中程度の利用頻度のユーザー層も5Gに取り込めている」とみる。情報通信総合研究所の岸田上席主任研究員は「韓国企業が世界の5G市場でシェアを獲得する足がかりとして、政府が自国での普及を支援している」と分析する。
SKテレコムは5G向けに月間データ量が150ギガ~300ギガバイトという大容量の料金プランを提供している。期間限定でデータ量を無制限にするキャンペーンで4Gからの移行を促す。KTは月額8万ウォン(約7200円)以上のプランで、データ量を無制限とする。
米国ではFWAが先行
米国の5G商用モバイルサービスも韓国と同様に2019年4月に始まったが、今のところ韓国ほどには盛り上がっていない。5Gを展開する通信4社の提供エリアが限られるためだ。「最も広く展開しているAT&Tワイヤレスでも21都市で、しかもユーザーを限定している。他の3社はいずれも10都市前後の展開であり、提供済みの都市でもサービスエリアは局所的だ」(情報通信総合研究所の中村邦明主任研究員)。
一方、米国では韓国と異なる形での5Gの展開も見られる。モバイルサービスより半年ほど早い2018年秋に始まったFWA(Fixed Wireless Access)サービスだ。FWAは据え置き型5Gルーターを使って家庭向けの引き込み回線を提供するものである。
「米国では中規模の都市でもケーブルテレビ回線を使ったインターネット接続サービスが主流で、光回線より低速だ。5GのFWAサービスはその代替として期待されている」(野村総合研究所の沢田和志ICTメディア・サービス産業コンサルティング部副主任コンサルタント)。
住宅地への基地局設置によりFWAで5Gユーザーを獲得しつつ、モバイルサービス用に広範囲なネットワーク構築も進めていく展開となりそうだ。