全2960文字
PR

この連載ではD2Cビジネスの考え方やシステム構築の勘所などを解説してきた。最終回となる今回はD2C先進国である米国の最新動向を紹介したい。AR活用サービスや進化形のサブスクリプションサービスには目を見張るものがある。

 D2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)はデジタル技術を用いて、従来の企業と消費者の関係性や商品の売り方を大きく変えていくビジネスモデルである。その本質はデジタルの力を使って顧客の購買プロセス、購買経験を変革すること。D2Cにはテクノロジーも深く関わるため、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代のビジネストレンドとして、エンジニア視点からもD2Cを理解しておこう。

 前回は国内のD2C事例を紹介した。最終回となる今回は技術の活用方法やビジネスモデルに特徴のある米国の事例を見ていこう。D2Cは従来の単純なオンライン通販と比べ、以下の3つの特徴を備える。〔A〕テクノロジーを駆使した購買プロセスや商品の最適化、〔B〕オンライン直販による中間コスト削減、〔C〕サービスコンセプトを顧客と共有し、共感を呼ぶ――である。

 この特徴を生かしたり、欠点を補ったりするためにAR(拡張現実)などの最新技術を活用する事例と、サブスクリプションサービスと買い切りの商品を組み合わせた「SaaS Plus a Box」モデルの事例を順に紹介する。

AR試着へと進化

 D2Cではオンライン販売をメインとするサービスが多い。オンライン販売には、場所を問わずどこからでも購入できる、コストが安くなるといったメリットがある一方で、実物の商品に触れる機会はない。

 そのためD2Cではオンライン購買体験をいかに現実の店舗に近づけ、ともすれば上回れるかが課題となる。この課題に対処するため、ファッションアイテムなどを中心にARを活用して仮想的な試用を実現するD2Cサービスが増えている。「〔A〕テクノロジーを駆使した購買プロセスや商品の最適化」と、「〔B〕オンライン直販による中間コスト削減」の両立を図るわけだ。

 AR導入が進む背景には、深度カメラなど関連技術の進化もある。例えばiPhone Xで搭載された「TrueDepthカメラシステム」は3万個の赤外線ドットを顔面にメッシュ状に投影し、顔の3Dモデルを作成できる。この技術はiPhoneの顔認証システム「Face ID」でも利用されている。

 TrueDepthカメラシステムを取り入れたD2Cサービスを提供するのが米ワービーパーカーだ。同社は2010年創業でメガネのオンライン販売などを手掛ける。2020年度の純売上高は3億9370万ドルに上り、史上最も成功したオンラインブランドとも呼ばれる。