AIやIoTを駆使する「畜産テック」によって、人手を中心とした畜産・酪農の現場が変わり始めている。美味しく安全な肉や乳製品を安定して消費者に届けるためにデジタル経営への転身を狙う飼育の現場を回った。
家畜の体調管理は畜産や酪農農家の基本だ。ただし相手は生き物であり、工業製品のような品質管理は難しい。そんな課題をIoTとAIで解消する動きが広がっている。
鹿児島県曽於市。鹿児島空港から南東に車で1時間半ほど走った先にある、全国でも有数の和牛産地だ。和牛の繁殖農家を営むだいちの牛舎では、50頭ほどの黒毛和牛が思い思いに餌を食べたり寝転んだりしている。
実はこの牛たち、1頭1頭がインターネットにつながっている。IoT(インターネット・オブ・シングズ)とクラウドから成る「牛群管理システム」を使って、牛の個体情報や従業員の作業記録を一元管理している。
牛の状態を知るのに使っているのがIoT端末の「Farmnote Color」。牛の首に取り付ける。北海道生まれのベンチャー企業ファームノートが提供する製品だ。水平、垂直、奥行きと3軸の加速度センサーを内蔵し、牛の動きや反芻と呼ぶ、そしゃくと消化を繰り返す行為、休息などの様子を検知する。AI(人工知能)が個体ごとに行動パターンを学習して、発情の兆候や病気などの異常を農家に知らせる。農家の従業員はスマートフォンやPCから情報を参照したり更新したりできる。

だいちがFarmnote Colorを試験導入したのは2018年8月のことだ。狙いは「長年の勘と経験に頼ってきた作業を、データと照らし合わせて効率化する」(上岡義孝社長)ことにある。「黒毛和牛はデリケートな品種であり、飼育には特有の難しさがある」(同)。牛の健康状態を見える化して、体調の変化をいち早くつかみ、きめ細かい管理を可能にする。