全3105文字
PR

政府はコロナ対策で複数の給付金事業とその分のオンライン申請システムを立ち上げた。「一刻も早く届ける」「窓口の密を避ける」と意気込んだが、拙速な判断があだとなった。雇用調整助成金、持続化給付金、特別定額給付金におけるトラブルを深掘りする。

提案内容の精査怠る
雇用調整助成金オンライン申請システム

 厚生労働省が担当する雇用調整助成金(雇調金)のオンライン申請システムは、ハローワークでの密を避けるため開発を急いだシステムの1つだった。しかし2020年5月20日の稼働初日に個人情報が漏洩する不具合が発生し、即日停止した。不具合を修正して再開した2020年6月5日も稼働後すぐに同様のトラブルが発生した。

 2度の「即停止」を重く見た厚労省は第三者にシステム監査を依頼。再度の改修と慎重なテストを経て、最初の稼働から3カ月後の2020年8月25日にようやく稼働を再開した。

 厚労省は同システムの開発と運用を富士通に発注した。選定の理由は、雇用保険など労働行政で使われるハローワークのシステムを開発運用する富士通ならば、「雇調金の業務にも通じており、妥当だと判断した」(厚労省雇用開発企画課)からだ。

 日経コンピュータは検証のため情報公開請求し、システム監査を担当したフューチャーアーキテクトが厚労省に提出した報告書を入手した。報告書から読み取れるのは、この過信が後の発注のずさんさにつながったことだ。

 厚労省は2020年4月27日に富士通にシステム発注を打診した。富士通はローコードプラットフォームを手掛ける米ペガシステムズの日本法人であるペガジャパンを協力会社に選び、同社のクラウドサービスをカスタマイズする方法を厚労省に提案した。

 2020年5月1日には富士通がプロトタイプを厚労省の担当者に示し、担当者はその場で提案内容を了承したという。加えて厚労省と富士通は同日中に本稼働日を2020年5月20日とする方針まで一気に固めた。

図 システム監査で指摘された雇用調整助成金オンライン申請システムの発注における問題点
図 システム監査で指摘された雇用調整助成金オンライン申請システムの発注における問題点
緊急事態下で慎重さ欠き、既存ベンダー頼みに
[画像のクリックで拡大表示]

 この時点で富士通は単独で開発工数を10人月と見積もっている。報告書に因果関係は記されていないが、この工数を基に本稼働日を決めたとみられる。開発を急ぐ厚労省は、競争入札が難しい緊急時に認められている「緊急随意契約(緊急随契)」を富士通と結び、開発をスタートさせた。

 報告書によれば、厚労省の担当者らは富士通の提案の実現性をほぼ何も検証せずに発注を即決したという。ペガのクラウドサービスが十分な性能や品質を持っているか、富士通や協力会社が同クラウドに習熟しているかなどを精査しなかったのだ。

 フューチャーの検証によれば10人月の工数見積もりは過少だった。情報公開時に厚労省は報告書から消去したが、フューチャーが算出した必要工数はこの2倍以上だったとみられる。

 発注者側の強い要請を受けると、受注者側は納期や開発体制に無理が生じやすくなる。後戻りの許されない緊急時だからこそ、発注の適正さを冷静に検証する必要がある。