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新型コロナのIT対応で日本政府は「デジタル敗戦」を喫した。復興に向けデジタル庁が立ち上がろうとする今、大切なのは失敗から学んだ教訓をどう生かすかだ。日本社会の再設計に向けた期待は大きい。IT企業トップや政治家など10人の提言に耳を傾けよう。

住民主語のデジタル化を進めよ
Zホールディングス社長CEO(最高経営責任者) 一般社団法人日本IT団体連盟会長 川辺 健太郎 氏

川辺 健太郎(かわべ・けんたろう)氏
川辺 健太郎(かわべ・けんたろう)氏
Zホールディングス社長CEO(最高経営責任者)、一般社団法人日本IT団体連盟会長 1974年生まれ。大学在学中の1995年に電脳隊を設立。2000年ヤフー入社、2018年社長CEO。2019年に持ち株会社制に移行し、社名をZホールディングスに変更した。(写真提供:Zホールディングス)
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 2020年9月9日、Twitter上で「デジタル庁・私案」を発表した。その最初に「デジタル庁創設の目的は第一に日本に住む人のウェルビーイング(幸福)の増進」と書いた。「公共部門のデジタル後進国」を脱するうえで最も重要なのは、日本に住む人や在外日本人といった行政サービスを受ける側の視点に立ち、「住民主語のデジタル化」を進めることである。

 行政サービスは独占であり他に乗り換えられる心配がない。住民の利便性の向上よりも、自分たちの仕事のしやすさを重視しがちな構造と言える。

 行政のデジタル化における最大のメリットは、個々人の実情に合わせたワンツーワンのサービスを提供できるようになる点にある。そうしたサービスをデジタルで提供するにはIDを使って個人を認証し、個人ごとのデータを蓄積する必要がある。

 その点でマイナンバー制度には期待している。ただ使い勝手には課題がある。まず物理的なカードである必要があるのかは疑問だ。アプリにすれば物理的な制約はなくなる。

 先日、自分のマイナンバーカードの電子証明書を更新するために役所に行った。アプリで更新すれば出向く必要もなくなる。政府はこうした点もデジタルで解決する方向でマイナンバー制度をアップグレードしてほしい。

 人は何かのきっかけがあって行政サービスを受ける必要に迫られ、役所に行く。その「きっかけ」の中に行政サービスを組み込めば、もっと良いユーザー体験を提供できる。

 マイナンバー制度に関連するデータベース、認証の仕組み、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)などを作るのは国の役割だ。しかしAPIで連携してデータベースにアクセスし、行政サービスを提供する主体を行政機関に限るのではなく、民間企業にも門戸を開くべきだ。

 今の日本はデジタルの力によって便利になった民間のサービスと、不便なままの行政サービスとが同居している。率直に言って、行政サービスを民間企業が手掛けたところでお金がもうかるわけではない。

 それでもユーザーの利便性を高めるために行政サービスに積極的に関わっていきたい。当社とLINEが(2021年3月に)経営統合すれば、ユーザーのウェルビーイングを高めることがさらに大きなテーマになるからだ。(談)

優れた地方DX事例の横展開を
サイボウズ社長 青野 慶久 氏

青野 慶久(あおの・よしひさ)氏
青野 慶久(あおの・よしひさ)氏
サイボウズ 社長1971年生まれ。愛媛県今治市出身。1994年大阪大学工学部卒業、松下電工(現パナソニック)入社。1997年8月松山市でサイボウズ設立。2005年4月から現職。(写真提供:サイボウズ)
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 最初にすべきことは、マイナンバーカードをやめることだ。毎年数千億円の予算をつぎ込んでも普及率は2割程度にとどまる。うまくいっていないのに、やめるという選択肢を持っていないのはおかしい。

 国と地方のそれぞれのシステム標準化はぜひ進めるべきだ。ただ、自治体の意見を聞かずに中央でフォーマットを勝手に決めてしまい、自治体が「それでは現場の実態に合わず仕事しにくい」と言って自分たちで別のフォーマットをつくるような事態にならないかと懸念している。

 デジタル庁に民間人を起用するのもいいが、より重要なのは自治体の職員に入ってもらうことだ。現場の使いやすさという視点が入らないのは「国が上で自治体が下だ」という意識が根底にあるからではないか。

 DXの要諦は、現場のデジタル化と優れた事例の横展開だ。新型コロナ禍で、神奈川県が当社のクラウドサービス「kintone」を使って医療機関の情報を集約する仕組みをつくった。大阪府や埼玉県も新型コロナ対策にkintoneを活用している。神奈川県の事例を参考に、国も(同じ機能を持つシステムである)G-MISを作った。中央政府がすべきことは、優れた現場の事例を横展開するファシリテーションである。

 神戸市や千葉県市川市、徳島県神山町などとは新型コロナ禍の前から親しく付き合ってきた。これらの自治体の首長や職員は「ITを使って行政サービスの質を上げるんだ」という熱意を持ち、アイデアを次々と実行に移している。彼らこそが行政DXのリーダーだ。

 現場を知らない中央政府がシステムを決めて全国展開したら、成功する確率が低い一発勝負になってしまう。現場でDXに取り組んでもらい、成功事例を横展開するほうがうまくいく。そうした成功事例を支援するのが我々の役割だ。(談)

自律分散型でイノベーション起こせ
シナモン社長CEO(最高経営責任者) IT総合戦略本部本部員 平野 未来 氏

平野 未来(ひらの・みく)氏
平野 未来(ひらの・みく)氏
シナモン社長CEO(最高経営責任者) 1984年生まれ。2009年東京大学大学院工学系研究科修了。在学中の2006年にネイキッドテクノロジーを共同創業し、2011年にミクシィに売却。2012年シナモン創業。2020年からIT総合戦略本部本部員、内閣府税制調査会特別委員も務める。(写真:鈴木愛子)
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 国民が真に使いやすい行政サービスをつくるにはこれまでの中央集権型を自律分散型に改めるとよいだろう。

 政府システムの開発はこれまでウオーターフォール型がほとんどだった。要件を定義して相見積もりを取って発注し、ITベンダーがつくるといった流れだ。結果として、政府システムは使いにくく、新型コロナという未曽有の状況にうまく対応できなかった。人間の想像力には限界があって、最初からあらゆる事態を想定した100点満点の要件はつくれないからだ。

 我々のようなスタートアップからすると、2週間に1度システムやサービスをアップデートするのは当たり前だ。常にその場で起こる課題を解決し、新しい機能を加えていっている。こうしたアジャイル開発のやり方を政府ももっと取り入れるべきではないか。

 政府はデータの統合方針だけを示して、誰でも行政のシステムづくりに参加してイノベーションを起こせるようにすべきだろう。都市部と地方とでは課題が異なり、同じシステムでもオペレーションが異なるはずだ。そこを中央集権的に一律でやろうとしても失敗する。

 データプラットフォームはAIを有効活用できる「AI-ready」なものを構築すべきだ。デジタル庁にはAIの専門家が入ってデータプラットフォームを設計することが欠かせない。(談)