日本社会を待ち受ける高齢化。企業のIT部門も例外ではない。経済産業省が指摘した「2025年の崖」では、企業が抱えるレガシーシステムに加え人材の老化という課題も浮き彫りとなった。本特集でいう「老化」とは単に年齢の問題ではない。本質は古い技術や考え方に固執してデジタル活用が進められない点にある。DX(デジタルトランスフォーメーション)に臨む先進企業の取り組みから、新時代を生き抜く「老いないIT部門」の作り方を探る。

(画像:123RF)
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 企業が抱えるITインフラの老朽化、保守を担う技術者の退職――。経済産業省が2018年9月に発表したDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に向けた報告書「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」は、日本企業が長年黙認してきた課題を改めて指摘した。

 老朽化したシステムを抱え続ける企業は、IT予算の9割以上をレガシーシステムの維持や管理に費やすことになるとする。業界の人手不足も悪化し、2025年には全体で約43万人のIT人材が不足するとみている。

 現状、IT部門の年齢構成はどうか。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査2019」によれば、回答を得た1005社のIT部門のうち「40代が半数以上」「50代以上が半数以上」と答えた企業の合計は37.2%だった。IT部門の高齢化は着実に進行していると言える。

 単に部員の平均年齢が上がるだけならば実害はないかもしれない。しかし、高齢化などにより新しい技術や考え方を受け入れにくくなるのは問題だ。「組織の老化」とも言えるこの状態は、企業のDXを阻害する要因となる。

IT部門が企業風土を変える

 「昔ながらのIT部門のままではDXは達成できない」。企業のDX推進担当者は組織が老化する弊害を異口同音にこう唱える。

 これまでのIT部門は、事業部門の要望に沿ってシステムを開発していた。その結果、IT部門は「言われたことだけをやる受け身体質になりかけていた」。ダイキン工業の森本隆志IT推進部長は、以前から感じていた危機感をこう振り返る。

 一方、事業部門はシステムのことはIT部門に任せきり、注文のみの「お客さま」のような存在になってしまう問題もあった。

 DXは事業とITの両輪で取り組まなければ実現しない。事業部門が主体的にITを活用できるように、企業風土そのものを変えていくべきだ。

 この企業風土の変革こそが組織の活性化、つまり「若返り」につながる。それを担うのがDX時代のIT部門だ。事業部門にIT人材を送ったり、IT教育を施したりして、企業のデジタルな視点を育てていく。

 事業部門とIT部門が互いの視点を持ち寄ってサービス開発していくことがDX成功の鍵を握る。それには部員のスキルも見直していく必要がある。

 IHI、日本郵船、ダイキン工業、コーセーなど、既に多くの企業が動き始めている。各社の事例を参考に、DX時代も老いずに走り続けられるIT部門のあり方を見ていこう。

図 DX時代でも老朽化しないIT部門のあり方
図 DX時代でも老朽化しないIT部門のあり方
IT部門が事業部門を育てる
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