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 新築住宅を検討している消費者の間で、ひそかに流行しているキーワードがある。ルンバブル。ロボット掃除機「ルンバ」と、できる、可能といった英語のableを組み合わせた造語である。ルンバが掃除をしやすいよう、最初から家の間取りを設計したり家具の形を工夫したりする行為を指す。

ロボット掃除機「ルンバ」を使うのに適した内装の住宅が増えている(写真提供:アイロボット)
ロボット掃除機「ルンバ」を使うのに適した内装の住宅が増えている(写真提供:アイロボット)
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 例えば壁や階段の最下層部分に、ルンバを収容して外から見えなくするくぼみをつくっておく。その名も「ルンバ基地」。壁を家の形にくりぬいてルンバが出たり入ったりする様子を見ることで、まるで犬小屋に出入りする飼い犬を見ているような感覚で癒やされている利用者も多いという。

 「最近はルンバブルやルンバ基地が当たり前。ルンバありきで家を設計する人が増えている」。ルンバの開発元アイロボットの日本法人の村田佳代PRマネージャー自身、現在新築を建てている最中で、施工業者は顧客の変化をこう話したという。

今あるロボの性能を生かす環境を

 人間と共生する存在から、生活や社会にとっての「前提」となる存在へ。ロボットがその位置付けを進化させつつある。

図 ロボット前提社会の考え方
図 ロボット前提社会の考え方
人間側の発想を変える
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 消費者が生活空間を設計したり企業が製品やサービスを開発したりする際に、パートナーとしてのロボットの存在を生活動線や業務プロセスに最初から組み込んでおく。今あるロボットの性能を最も発揮できるようにものを配置したり動線を確保したりする。ルンバありきの家具選びや部屋の間取り・デザインの設計などといったルンバブル現象は、ロボット前提社会の象徴と言える。

 「ロボットのさらなる導入促進と普及には、(ロボットが担うサービスが)人間がやるよりも多少いびつでも受け入れられる寛容さが必要だ」。経済産業省の板橋洋平ロボット政策室室長補佐はこう主張する。板橋氏は経産省が2019年から実施している「ロボットフレンドリーな環境実現に向けた取組」を担当している。

 具体的にはユーザー企業とロボット導入支援企業らが参画するタスクフォースを設け、施設管理や小売り、食品や物流倉庫といった分野ごとに、ロボットを導入しやすい環境づくりのための課題の洗い出しや標準規格の策定などに取り組んでいる。

 背景には今あるロボットの性能を最大限生かすために、人間や環境がロボットに歩み寄ることで活用を進めていきたいという意図がある。従来はロボットを導入するために課題が生じると、ロボットの技術に問題があり、今ある環境に適さないからまだ導入できないと考えるのが当たり前だった。

 「今あるロボットが性能を最大限生かせるようにするための環境づくりが、今後の普及に向けたカギだ」。野村総合研究所の長谷佳明未来創発センターDX3.0政策戦略室エキスパートストラテジストはこう指摘する。ロボットは現場で人間と一緒に作業する。ロボットを導入した場合に変えるプロセスと変えないプロセスを整理し、ロボットの良さを引き出せる業務プロセス設計や人員配置、ロボットの動線づくりをすることが普及への近道という。

ロボの力引き出す「前提社会」へ

 配膳を全てロボットに任せるのではなく重い食器を下げる作業だけを任せる、ちょっとした段差を乗り越えるために特注のロボットをつくるのではなく汎用的なロボットに合わせてオフィス内のレイアウトを変える。こうした人間側の工夫で、今あるロボットの力を存分に引き出せるようになるという。

 自動車が発明された後に道路や信号を整備したように、街や商業施設、オフィスビルでロボットを活用するために環境を整備する。こうした「ロボット前提社会」はすぐそこまできている。