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全社DXを推進する上で、全社員のリスキリングは不可欠だ。先行企業は全社員に、DXの理解を深めたり、基礎スキルを習得したりする教育を始めた。その好例といえる大日本住友製薬とSMBCグループの事例を取り上げる。

 大日本住友製薬や三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)など全社員を対象にリスキリングをする企業が続々と登場している。背景にあるのは、「全社DX(デジタル変革)」の取り組みの広がりだ。従来は専門部署や一部の業務部門が先行してDXに取り組むケースが多かったが、そこでの成果を受けて全社への展開を図る企業が増えている。先端のデジタル技術を新事業の創造だけでなく、既存業務の変革にも広く適用する動きが顕著だ。

 全社DXが進む中、社員1人ひとりにとってもリスキリングは重要な意味を持つ。多摩大学大学院の徳岡晃一郎教授は「現在は業種を問わずビジネス環境の変化が激しく、これまでに身に付けた業務知識やスキルだけでは不足してしまう」と指摘する。

 例えば製造業では、従来は熟練工の経験や勘が必要だった製造設備の運転や製品の検品といった作業を人工知能(AI)に置き換える取り組みが進んでいる。徳岡教授は「社員はリスキリングによって新たな業務に就くなど自身の価値を高められる」との見方を示す。

 しかし全社員のリスキリングに取り組む企業からは、一筋縄ではいかないとの声が聞こえる。全社員のリスキリングを進めているあるサービス企業の人事担当者は、「全社員がリスキリングに自分から手を挙げたわけではないので、モチベーションの温度差が大きい」と明かす。別の人事担当者は、「たとえリスキリングへのモチベーションが高い社員でも、大半はデジタル技術の知識や経験が乏しい。そんな非ITの人材に対して、どんな研修プログラムを組めばよいのか悩む」と話す。

 モチベーションの向上・維持、それに全社のデジタルスキルを底上げするような教育コンテンツの作成──。大日本住友製薬とSMBCグループの事例を通じて、こうした課題をどう乗り越えようとしているのか見ていこう。

大日本住友製薬
既存業務の効率も重視 管理職に追加の研修

 「DX推進の重要性について話してきましたが、反対意見が出ることもあります。その場合、どう対応策を考ればいいでしょうか」──。これは大日本住友製薬が2021年8月に始めたデジタル研修の一場面だ。

 同社がこの研修の対象にしているのは約3000人の全社員である。全社員を対象にした理由について大日本住友製薬の菅原秀和データデザイン室主席部員は「製薬業界の変化が激しく、どの階層でもデジタル技術を使いこなすことが欠かせなくなってきている」と説明する。

 同社は2017年に情報システム部門をコーポレートIT統括部からIT&デジタル革新推進部に変更するなど、DXに積極的な姿勢を見せている。特に2019年12月、デジタルを使った新薬開発に強みを持つ欧州スタートアップのロイバント・サイエンシズと提携したのをきっかけに、デジタル関連の部署を複数新設した。それらの新設部署で、高度なデータ分析の結果に基づいた新薬の事業性評価や営業活動を進めている。

 大日本住友製薬においてデジタル技術によって業務が変わる象徴的な存在が、MR(医薬情報担当者)と呼ばれる職種だ。医師と直接面会して医薬品の情報を提供し、患者の治療時に自社の医薬品を選択してもらいやすくする業務を担う。新型コロナウイルスの影響で2020年春ごろから医師との面会が難しくなっており、いち早く対面とオンライン面会の両方を使い分けるように切り替えた。