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全社でDXに取り組むには、チェンジマネジメントも全社レベルで実践する必要がある。現状どれだけ進んでいるかを把握し次の段階に進むうえでは、「成熟度モデル」が役立つ。チェンジマネジメントの成熟度を高める3つのアプローチと合わせて解説する。

 DX(デジタル変革)を進めるうえで、社員1人ひとりの意識を変えることが求められます。その代表的な手法の1つが「チェンジマネジメント」です。本連載では、チェンジマネジメントの考え方に基づいて、DXを成功させる考え方、役割、進め方を説明します。

 今回も、DXのリーダーの1人に抜てきされたシステムエンジニア、虎ノ門精機の田中さんの架空ストーリーを交えて解説します。田中さんは、担当していた人工知能(AI)による業務自動化プロジェクトを無事にいったん終えました。一方、鈴木CDO(最高デジタル責任者)は田中さんにさらに期待していることがあるようです。田中さんの目線に立って、チェンジマネジメントの実際を見ていきましょう。

 虎ノ門精機では、鈴木CDOやその他の役員・本部長によるスポンサーシップの発揮と、現場の中間管理職の積極的な参加もあり、DXの一環として計画した業務自動化AIプロジェクトが完了した。プロジェクトを主導したDX推進室の田中は鈴木CDOのもとへ報告に訪れた。

 「鈴木CDOや役員・本部長の積極的な参画と、管理職の皆さんの協力のおかげで、新システムを稼働できました。現在、AIの利用率をモニタリングしていますが、事前に社員研修を開催したこともあり、現場での利用が定着しているようです」

 「今回はご苦労さま。プロジェクトの皆さんには本当に感謝しているよ。引き続き効果測定をよろしく頼む。ところで、田中くんには新たにお願いしたいことがあるのだが」

 「何でしょうか?」

 「当社が激変するビジネス環境に順応し、競争力を強化することを目指してDXに取り組んでいるのは知っているな。AI活用だけでなく、さまざまな変革プロジェクトを進めているのだが、今回のプロジェクトの知見を、他のプロジェクトや会社全体に展開してくれないか。まずはその方策を練ってほしい」

 鈴木CDOからの指示を受け、田中が具体的な進め方に悩んでいたところ、虎ノ門精機が契約しているコンサルタントの渡辺が声をかけてきた。田中は渡辺に経緯を説明した。

 「なるほど、経緯がよく分かりました。今回、田中さんはプロジェクトレベルでチェンジマネジメントを適用しましたが、鈴木CDOが期待しているのは全社レベルでのチェンジマネジメントに向けた成熟度の向上ですね。詳しく説明しましょう」

チェンジマネジメントの3区分

 DXのような変革の成功には、ITや制度の設計・開発・提供といった技術的側面に加えて、組織の1人ひとりが変革に関わり、必要なスキルを身に付け、適応できるようにする人的側面が重要です。そして、人的側面を支援する体系的なアプローチがチェンジマネジメントです。

 チェンジマネジメントは組織内のさまざまなレベルで実施します。具体的には「個人」「プロジェクト」「全社」という3つのレベルのチェンジマネジメントに区分できます。

図 チェンジマネジメントの3つのレベル
図 チェンジマネジメントの3つのレベル
全社レベルでの実践を目指す
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 まず個人レベルのチェンジマネジメントについて説明します。変革に抵抗感を持つのは、人としてごく自然な反応といえます。一方で、人は適応性も持ち合わせています。変革していく過程で適切なサポートを受けると、抵抗感は薄れ、適応しやすくなります。個人レベルのチェンジマネジメントの支援では、人がどのように変革を経験しどうすれば適応できるのかを理解したうえでフレームワークを活用します。フレームワークとは具体的には、本連載の第4回で紹介した「ADKARモデル」などがあります。

 プロジェクトレベルのチェンジマネジメントは、プロジェクトマネジメントを補完するものでもあります。プロジェクトによって影響を受けるグループや社員を特定し、彼ら彼女らに必要な気づきを与え、リーダーシップ、コーチング、トレーニングを提供する計画を策定します。その計画に沿って、プロジェクトで導入する新システムなどの解決策を社員が受け入れ、実際に使う状態になることを支援します。