全3605文字

DX(デジタルトランスフォーメーション)に乗り出す企業は増えているが、停滞するケースが少なくない。DXは従来の業務改善と同じやり方では通用しない。社員の意識を変える取り組みが不可欠だ。そのための手法である「チェンジマネジメント」によって、DXを成功させる考え方、進め方を説明する。

 多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めています。パイロットのプロジェクトで一定の成果を収めて、全社レベルに取り組みを広げるケースも出てきています。

 DXは事業モデルや企業の組織・文化・風土を変革する取り組みであり、従来の業務改善とは一線を画します。そのため社員1人ひとりの意識変革が求められます。その代表的な手法の一つが「チェンジマネジメント」です。

 本連載では、チェンジマネジメントの考え方に基づいて、DXを成功させる考え方、役割、進め方を説明します。すぐに活用できるモデル(ツール)についても紹介します。

 チェンジマネジメントがDXでどのように役立つのかを分かりやすくお伝えするために、架空のストーリーに沿って説明していきます。主人公は、DXのリーダーの1人に抜てきされたシステムエンジニアの田中さん(40歳)です。田中さんの目線で、チェンジマネジメントの実際を見ていきましょう。

 2022年11月、社員5000人の製造業である虎ノ門精機でIT部門の課長を務める田中は役員の鈴木に呼ばれた。会議室に入ると、鈴木が用件を切り出した。

 「私が新たにCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)になったことは知っているな。これから当社も本腰を入れてDXを推進していく。そこでDX推進室を新設し、企画部門とIT部門から人を集める。DX推進室長は経営企画室の山田室長が兼務するが、併せてリーダー格の実務担当者3人をDX推進室に集めることになった。君はその1人だ。IT部門から移って、幾つかのDXプロジェクトでリーダーを務めてもらいたい」

 田中は過去に間接部門の業務改善プロジェクトを主導した経験があり、それが評価されたようだ。その際には間接部門の業務にITツールを導入し生産性を高めた。現場の要望に応えたため、社員は総じてIT化に前向きだった。ただし今回はデジタル技術による事業や業務の変革だ。事業部門はDXを望んでいるとは限らない。田中は自分では荷が重いと不安を鈴木に隠さず伝えた。鈴木は穏やかに答えた。

 「確かにこれまでのやり方ではDXを推進するのは難しいかもしれない。社員1人ひとりの意識を変えていく必要があるね」

 そのための専門性を持ったコンサルタントとして、鈴木は渡辺の名前を挙げた。渡辺はフリーランスのコンサルタントで、虎ノ門精機がリーダー研修を委託しており、人材育成の顧問契約も結んでいる。

 数日後、田中は鈴木の助言に従って渡辺に会い、単刀直入に尋ねた。

 「事業部門の意識が気がかりです。どうしたら事業部門はDXに対してやる気になってくれるでしょうか?」

 渡辺はうなずきながら言った。

 「大丈夫です。そのための方法があります。さっそく説明しましょう」