副業のIT人材を活用する企業も増えてきた。副業のマッチングサービスを手掛けるITプロパートナーズの富士本康平執行役員は「これまで(マッチングサービスを)利用する企業の大半がスタートアップだったが、最近は大手企業から相談を受ける機会が増えている」と証言する。
副業者の活用は地方企業にも広がっている。2019年3月に地方企業を対象にした副業マッチングサービスを始めたJOINSの猪尾愛隆社長は「既に22件の成約がある。政府が地方での副業に支援金を出す方針を示しており、さらに増えると期待している」と話す。
副業の求人票には次のようなものがある。仕事はWebサービスの開発に伴うプロジェクト支援。Ruby on Rails やAmazon Web Services(AWS)、プロジェクトマネジメントのスキルを必須とする。勤務日数は週1~2日、1日3時間程度働く。時給はスキルに応じて上限6250円である。
求人の多くは平日の夜や土日に勤務する内容だ。大半の企業はテレワークを認めており、チャットツールやWeb会議を使ってコミュニケーションを取りながら仕事を進める。そのため勤務先が居住地から遠くても就業が可能である。
企業が副業者を受け入れる理由は明確だ。本業で培った専門スキルの活用である。受け入れ企業で「空白地帯」となっているスキルを持つ、即戦力の人材を求めているわけだ。
先行するスタートアップ企業
副業者の活用で先行するのがスタートアップ企業である。2019年5月に広報ブランディング支援のMaVie(マヴィ)を起業した志賀祥子社長は「最近のスタートアップ企業は副業者の力を借りるのが当たり前」と言い切る。「当社もIT、資料作成、リサーチなど様々な業務で副業者を活用している」と続ける。
スタートアップ企業は資金面の余裕がなく、多数の社員を雇えない。あるいは人材育成に十分な時間やコストをかけられない場合が多い。事業規模が小さいだけに、中核業務以外はフルタイムで働くほどの作業量がないケースもある。創業メンバーが持つスキル以外は全て手薄になり、それをカバーするのが副業者というわけだ。
MaVieは自動車販売会社のWebマーケティングを本業とするエンジニアに、自社のWebサイトの作成や改修、クラウドサービスの導入・運用支援などの業務を委託している。志賀社長は「Webサイトのレイアウトや画面遷移などのトレンドを押さえており、見やすく使いやすいWebサイトを構築できた」と副業者活用のメリットを話す。
会社が成長し、社員として複数の人材を抱えると、スキルの空白地帯が変わってくる。ITエンジニアの紹介事業を手掛けるサーキュレーションの柳田直人執行役員flexy事業部部長は「業界で名が知られるようなハイレベルなIT人材に副業をしてもらいたいというニーズが出てくる」と話す。
スタートアップ企業には大きな組織を率いたり、大規模なサービスの開発・運用を経験したりした社員がいない場合が多い。そこで開発組織の整備、ITエンジニアの採用、将来を見据えた技術選定といった役割を期待し、他社でCTO(最高技術責任者)やVPoE(バイスプレジデント・オブ・エンジニアリング:開発チームのマネジメント責任者)を務める人材の力を借りようとしている。
ただし現役のCTOやVPoEは引く手あまただ。年収も1500万円以上と高く、スタートアップ企業が正社員として雇用するのは難しい。そうした人材にふさわしい仕事が必ずしも多いわけではない。そこで副業として手伝ってもらう選択肢に行き着く。