AI推進の組織構築では、CoE(Center of Excellence)をどう配置するかがポイントだ。AI人材を育成する上では、6つのスキルエリアを意識する必要がある。初期プロジェクトでは、市民データサイエンティストと業務担当者が重要な役割を担う。
AI(人工知能)の導入プロジェクトを成功に導くには「AI Driven」の考え方が欠かせません。AI Drivenは、ビジネス上の意思決定にAIを活用する段階を経て、ビジネスモデル変革に進めます。本連載では、AI Drivenで注力すべき、組織とビジネスに関する5つの領域を順番に紹介しています。
今回は、AI Drivenを実現する上で「最適な組織・人材育成とは何か」をテーマに解説します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)によって企業が変革を成し遂げるには、単にソリューションとなるテクノロジーを導入するだけでは不十分です。テクノロジーを活用し、ビジネスインパクトを生み出すことのできる人材を育成し、DXに最適化された組織を構築する必要があります。いうなれば、チェンジマネジメントの遂行も合わせてDXを推進しなければならないのです。
特にDXの要とも言われているAIの活用に着目すると、全社戦略に沿ったCoE(Center of Excellence、組織横断的に活動する部門)をどのように構築し、それを現在の組織図上のどこに配置するのか、まずはこの問いに答えていく必要があります。
CoEの配置は活用度合いで変化
なぜCoE組織が重要なのでしょうか。それはAI活用のゴールが実業務へAIを組み込みビジネスインパクトを生み出すことだからです。
AIに関心を持った企業のIT部門が草の根的にAI活用を推進するケースをしばしば見かけます。このような場合、モデルの構築まではできたとしても、そのモデルを事業に組み込むための業務知識が不足しているため、実際にAIを活用するビジネス部門の業務担当者に受け入れてもらえないといった事態が発生します。
一方、ビジネス部門だけでAI活用を始めた場合は、データサイエンス観点からのモデルのレビューを適切に行えず、予測したい事象を捉えきれないといったこともあります。
こういった部門単独の活用推進では、ある程度の成功を収めることはできるかもしれませんが、社内のAI活用に対する機運を高めることができず、全社展開が遅れてしまいます。こうしたAI推進の遅れが、これまでの連載で指摘してきたように、企業の中長期的な競争力を低下させるのです。
それではどのようなCoE組織の形態があり得るのでしょうか。筆者らはAI推進を3つのパターンに分類し、それぞれに適したCoE組織の在り方を以下の通り定義しています。
リード型CoE組織
業務の専門知識を保有するデータサイエンティストが所属するCoE組織を構築し、各部門からのAIテーマを請け負う形でプロジェクトを実行します。部門側に人的リソースを負担させたり、データサイエンティスト獲得に時間をかけたりすることなくプロジェクトを円滑に進めることができるのがメリットです。ただし、AIテーマの実務適用の数はCoE組織のデータサイエンティストの人数に依存します。
ある程度将来的な展開を見据えたテーマを選定し、1つ目のプロジェクトで蓄積したノウハウを、2つ目以降のテーマに横展開することで効率を上げてテーマを進めていきます。マーケティングや研究開発など、AI活用に注力すべき部署が限定的かつ明らかである場合に最適な組織体制と言えます。