AIやIoTを活用して水産業が抱える問題解決に挑む「漁師」コンピューター。漁師、仲買人が購入する競り場、鮮魚店など漁業に関わる様々な現場が恩恵を受け始めた。漁師がLINEで競りの情報を得る仕組みも登場している。
だんじり祭りで有名な大阪府岸和田市。大阪湾に面した漁港に、沖から漁船が戻ってきた。次々とかごを降ろしていく。のぞいてみると、氷漬けされたシラスが入っていた。
シラスの漁期は3月から12月で、5~6月がピークだ。漁船は朝6時から11時にかけて、4回ほど漁に出てシラスを取る。大阪鰮巾着(いわしきんちゃく)網漁業協同組合の岡修組合長は「1日で最大6000個のかごを水揚げする」と説明する。同組合が扱うシラスの年間取引額は2017年に約19億円、2018年は10月時点で約23億円だ。
競りをデジタル化、効率3倍に
シラスの入ったかごは競り場に送られ、競りにかかる。ここでは大声が飛び交う、おなじみの光景は見られない。理由はデジタル化にある。
シラスが届くと、同組合の職員がタブレットでかごの数と漁船名をシステムに登録する。メニューからタッチ操作で選べるので入力は容易だ。
システムへの登録順に競りが始まる。買い付けに来た水産会社の仲買人はシラスを手ですくって品質を確かめ、入札価格を決める。仲買人は価格を専用の札に記入し、競り場の担当職員に渡す。最も高い値を付けた水産会社が落札者となり、落札結果を職員がシステムに登録する。
競り場には8台の大型液晶モニターを置き、進行状況と落札価格を表示する。一目で情報を共有できる仕組みだ。
シラスを水揚げしてから約5分で落札が完了する。落札した水産会社は伝票に印刷された競りの結果を持ち帰る。シラスはトラックに積まれ出荷される。その頃には次の競りが始まる。
大阪鰮巾着網漁業協同組合は2017年5月に「競り入札・販売管理システム」を導入した。シラスのほかイカナゴの競りにも活用している。
システムを導入した結果、競りにかかる時間は従来の5分の1に縮まった。経理を含めた全体の業務時間は従来の3分の1になった。紙伝票の取り扱いは減り、確認作業はシステムで済む。会計ソフトとも連動しており、データ入力の負担も減った。「漁獲高のピーク時でも職員は残業せずに済み、ストレスも減った」と、同組合の関連会社オオサカフィッシャーマンサポートの根来成課長は効果を説明する。