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 「腹腔鏡下腸管癒着剥離術」「経皮的血管形成術」など、くせのある手書き文字で書かれた難しい手術名も高い精度で読み取れる――。第一生命は2020年7月、保有契約の手続き処理である「保全業務」の一部業務にAI OCR(光学的文字認識)基盤の導入を始めた。保全業務とは、契約者の保険料の支払い方法変更や名義の変更、解約などに関する事務処理を指す。

 段階的に対象業務を広げて、2022年の中ごろまでに年間約300万件の手続きでの入力業務や内容の点検業務について、業務量換算で4割の削減を目指す。入力業務は例えば口座番号などを入力する作業で、内容の点検業務は例えば請求書と免許証の氏名が一致しているかどうかといったチェック作業を指す。

 顧客の契約変更や保険金・給付金の支払いの過程で、第一生命は1日当たり平均7万枚ほどの書類やイメージを事務員が目視で点検している。年間に換算すると1700万枚にも上る。この事務処理をAI OCR基盤の導入で効率化する。同社規定の請求書といった「定型帳票」のほか、免許証や健康保険証のコピーなど顧客の本人確認書類や、病院が発行する領収書といった「非定型帳票」など約700種類の帳票を自動で読み取れるようにする。

 第一生命は契約に関する手続きのデジタル化を進めてきたが、本人確認書類や病院の領収書については、一定程度紙の書類が残っている。書類に記載された内容の確認や点検、システムへの入力といった事務員の作業をどう効率化するかという課題が残っていた。

 そこで導入したのがAI OCR基盤だ。AI OCRはOCRに最新のAI技術を取り入れることで文字認識精度を向上させ、さらに読み取り位置の自動抽出などをできるようにした技術を指す。第一生命はAI OCR基盤による文字読み取りと、人の目視による確認・修正が互いに補い合う形をとる。

 「2016年ごろにAI OCR技術が登場し、手書き文字の認識精度が上がって実用レベルになってきた」と第一生命の岩元慎弥事務企画部事務企画課マネジャーは話す。2017年に具体的に費用やベンダーの検討を始めた。2018年9月に複数の製品・技術を組み合わせて基盤を構築すると決め、同年10月から約1年半かけて開発。2020年7月に保全業務の一部で稼働を始めた。

 基盤構築には複数ベンダーの技術を使った。富士通がプロジェクトマネジメントや全体設計を担当した。書類スキャナーやITサービスを手がける富士通の子会社であるPFUが扱う帳票振り分け技術や、医療用語に強みを持つ富士ゼロックスの深層学習技術、AIベンチャーのシナモンの非定型帳票に対応したAI OCR技術「Flax Scanner」を組み合わせた。「AIの読み取り精度は全体で9割以上だ」(岩元マネジャー)。各ベンダーによる学習モデル作成に加え、第一生命側でも難度の高い手術名や20万件を超える診断書・請求書の手書き文字などを学習した読み取りモデルを作成した。