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DXの有望手段、金融機関が熱視線

 最先端の技術力と、製品に仕上げる製造能力。パートナーを広く募って互いにない強みを持ち寄り、これまでにない製品やサービスを生み出して世に送り出す。BionicMとシナノケンシの共創は「オープンイノベーション」の典型例だ。大企業中心にDX(デジタルトランスフォーメーション)熱が高まり、新規事業創出やビジネスモデル変革の有望な手段としてオープンイノベーションへの注目が高まっている。

 特に活発な業界の1つに金融分野がある。長引く超低金利やキャッシュレスをはじめとするデジタル技術の台頭で従来の事業構造は転換を迫られ、足元では新型コロナ禍による消費者の行動変化や融資先の経営難への備えなどにコストがかさんでいる。様々な変化への圧力が、金融業界をオープンイノベーションに走らせている。

 金融分野のオープンイノベーションを促す拠点の1つが東京・大手町のFINOLAB(フィノラボ)だ。開設はFinTechという言葉が日本で注目され始めた2016年。2021年11月時点で46社のスタートアップが登録済みで、三菱UFJフィナンシャル・グループや日本生命保険、東京海上ホールディングスといった金融機関が「出会い」を求めて参画している。2019年には三菱地所と電通国際情報サービスの共同出資で同名の運営企業を設立した。

 具体的な成果も生んでいる。一例がネットバンキングなどへの不正アクセス検知技術を提供するカウリスと関西電力が共同で手掛ける不正防止サービスだ。銀行が受け付けた口座開設申込者の情報の一部をカウリスと関西電力に提供。カウリスの不正検知技術と関西電力が持つ電気使用状況のデータを組み合わせ、申込者がなりすましかどうかを確かめる手助けにする。2019年3月にはセブン銀行が同サービスを使い、口座の不正開設防止効果を検証する実証実験を実施。2021年4月には北海道電力など3社が新たに電力会社として同サービスに加わった。

表 FINOLABにおけるオープンイノベーションの例
金融分野でオープンイノベーションが続々(出所:FINOLAB)
表 FINOLABにおけるオープンイノベーションの例
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日本の活動、欧米に30ポイント差

 企業の熱視線を集めるオープンイノベーション活動。ただ、「幸せな出会い」ばかりではない。

 「成功率は3割いくかどうか」。FINOLABの柴田誠チーフ・コミュニティー・オフィサーはこう打ち明ける。PoC(概念実証)を繰り返したものの製品やサービスの創出に至らない、サービスはつくれたが当初思い描いていたものには遠く及ばない品質にとどまる――。成果を上げるスタートアップと大企業の例は徐々に増えてきているものの、全体としてみれば成功とはいえないケースが大多数だという。

 国際的に見ても日本のオープンイノベーション活動は活況ではない。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などが2020年5月に発行した「オープンイノベーション白書 第三版」によれば、日本企業のオープンイノベーション実施率は47%と、欧米企業より30ポイント以上低い。

図 日本と海外のオープンイノベーション活動の比較
世界と比べ低調な日本の活動(出所:米山茂美、渡部俊也、山内勇、真鍋誠司、岩田智 「日米欧企業におけるオープンイノベーション活動の比較研究」学習院大学経済論集第54巻第1号 2017)
図 日本と海外のオープンイノベーション活動の比較
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 オープンイノベーションにフルタイムで従事する人員について、日本企業は21人以上が9%だったのに対し、欧米企業は23%で、より多くの人をフルタイムで従事させている。

 オープンイノベーションの成果の1つが大企業によるスタートアップの買収だ。大企業にとっては自社にない技術や製品、人材を取り込む手段であり、スタートアップにとってはイグジット(出口戦略)の1つとなる。この買収件数も、日本企業は欧米企業より2桁少なく、足元にも及ばない。「新しい企業を創出する意思、開業率、ベンチャーキャピタルによる投資額、大企業によるスタートアップの買収状況の件数などが総じて低い」。白書は日本のオープンイノベーションをこう断じる。

(出所:三菱総合研究所「平成30年度産業経済研究委託事業 大企業とベンチャー企業の経営統合のあり方に関わる調査研究 報告書」2019)
(出所:三菱総合研究所「平成30年度産業経済研究委託事業 大企業とベンチャー企業の経営統合のあり方に関わる調査研究 報告書」2019)
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