DXを進めようとする企業の中で、幅広い年代の社員が強い不安を感じている。それはDXの阻害要因となり、放置すれば全社一丸のDX推進はままならない。DXを進めるうえで大切な一歩は、不安という見えざる敵を知ることだ。
DX(デジタル変革)に限らず、新たな取り組みに人々が抵抗を示すのは、古今東西を問わず人間の普遍的な心理だろう。物理学者のマックス・プランクが「新しい科学的事実が勝利を得るのは、反対する者を納得させ、理解させたからではない。反対する者がいずれ死ぬからだ」と言ったように、論理的思考に優れるはずの科学者さえも例外でない。
本特集では、IT人材のスキルとキャリアを調査・研究するNPO法人ITスキル研究フォーラム(iSRF)が毎年実施している、ITエンジニアのスキルと意識を調べる「全国スキル調査2021」(回答数969人)と、一般企業のDX推進担当者や事業企画担当者などを対象とした「DX意識と行動調査2021」(同102人)の調査結果から、DXへの「不安」の正体をひもとく。
誰がどんな不安を感じるのか
企業のDXに際し、どのような人々が不安を感じるのか。自社でDXを推進していると回答した926人のうち「答えたくない」を除いた680人を年代別に分析すると、20代後半~40代後半でDXに不安を感じる人が6割近くに上った。
一方、50代以上では不安を感じる比率が低い。DXで自社が変わっても「定年まで逃げ切れる」などの見通しを持つ人が多いのかもしれない。
派遣社員を除く役職別では一般社員と管理職の不安が大きく、経営層やエキスパート・スペシャリスト職の不安は小さい。デジタル技術に詳しいエキスパート職の不安が小さいのは理解できるが、DXのかじ取りで重責を担う経営層の不安が小さいのは、DXの見通しを楽観視しているせいではないか。実はこうした自信過剰ともいえる傾向は、2019年の本調査でも判明している。経営者は社員のDXに対する不安を認識し、対策を講じるべきだ。
926人が感じる不安の種類別で最多なのは「分からないことが増えて追い付けなくなる」の21.8%。一方「慣れないことが増えて仕事で失敗しやすくなる」など2位以下の項目も一定の回答があり、不安の構造は単純ではない。