企業が自社のDXを完遂するには社員の不安へ丁寧に寄り添うとともに、トップがDXのビジョンから実践まで自ら範を示すのが肝要だ。不安を乗り越え、全社一丸のDXを成功させるための処方箋を見ていこう。
パート1で見てきたような、DXの阻害要因となりうる社員の様々な不安を解消するにはどうすればよいか。
回答件数の多かった5種類の不安のそれぞれに対し、会社の施策や回答者の属性を説明変数とする回帰分析で不安解消へのヒントを探った。
まず要注意なのは「部門別のスローガンの設定」「社内報などの社内広報」「外部有識者による講演会」「アイデアソンやハッカソン」「高度技術者の採用と適切な処遇」などの施策で、社員の不安を増す恐れが示されたことだ。
これらの施策は、なぜ自社にDXが必要かを説くために不可欠であり、不安を増すという理由だけでやめる必要はない。とはいえ、先鋭的過ぎて社員の既存の信念と衝突し不安を高めないよう内容に留意したり、社員のスキルに合わせて段階的に実施したりといった工夫が求められる。
一方、「デジタルスキル強化研修」や「デジタルリテラシー・スキル研修」「経営トップのIT活用や積極的な視察」は不安軽減に有効とみられる。DXの推進に向け、個々の社員が与えられた組織上の役割においてどう行動すべきかを具体的なレベルに落とし込んで説いたり、経営者が範を示したりすることで、社員の迷いを解決できそうだ。
組織心理学者アダム・グラントは著書『ORIGINALS』で、人々が不安や恐怖をはねのけて“オリジナルな何か”を実現させるには、新たな考え方に触れる機会を繰り返すことで親しみを増すことが有効だと説いている。回帰分析の結果からも「社内勉強会の実施」「プロジェクトに適したメンバー構成」「多様な社員・働き方を認める施策の導入」「OODAやデザイン思考などの採用」など、地道に文化を醸成する取り組みが不安軽減に効きそうだ。