全3127文字
PR

DXに取り組む企業が加速度的に増える中、産業界で需要が高まっているのはどのようなIT人材か。恒例の年収調査から、いまIT人材に求められているスキルを探る。

 全国スキル調査では、IT人材の役割(ロール)について「システムアーキテクト」「データサイエンティスト」など14種類を定義している。共通の質問を回答者に答えてもらい、14のロールに関するスキルを4.9点満点で判定した。1.0未満は未経験レベル、1.0~1.9は最低限の基礎知識を持つレベル、2.0~2.9は指導の下で要求された作業を担当できるレベル、3.0~3.9は要求された作業を全て独力で遂行できるレベル、4.0~4.9は自らのスキルを活用し独力で業務上の課題発見・解決をリードするレベルだ。併せて回答者には「現在の担当業務」も回答してもらい、担当業務別に各ロールの平均スキル、平均年齢、平均年収を算出した。

表 ロール(役割)別に見たITエンジニアの平均スキルと年齢・年収
平均年収は再び上昇傾向も、高スキル人材の年収増は一服か
表 ロール(役割)別に見たITエンジニアの平均スキルと年齢・年収
[画像のクリックで拡大表示]

 2020年の調査では、それまで毎年上がっていた平均年収が下落に転じた。一方、今回は全体の平均年収が550万円と、前回調査の531万円から再び上昇。業務別では、人数の多い「プロジェクトマネジメント」「システム構築」「製品/サービスの運用・保守」などの年収増が寄与した。

 2020年の調査では先端技術に関わる高スキル人材の年収に上昇傾向がみられた。2021年調査でも先端技術の平均年収は799万円と、前回の765万円から上昇。内訳ではデータサイエンスや人工知能(AI)の人材の年収は上昇したが、それ以外の高スキル人材の年収は微減となった。

 経済産業省のワーキンググループが公表しているDXの定義では「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」となっている。ポイントはデータとデジタル技術を並べて挙げている点だ。競争上の優位性を確立するうえでデータ活用やAIなどは重要であるとしている。

 しかし後述の調査結果から、ビジネスチャットの活用などデジタル化は進む一方、データやAIを活用したDXによる価値創造は進んでいないようだ。

 中国や米国など海外のDX事例からも分かる通り、単にデジタルのツールを入れ、現行のビジネスモデルのままデジタル化を進めても新たな価値やビジネスモデルは創出できない。デジタル化と併せてデータを集め、人が担当していたタスクや、人ではできなかったタスクをAIに担わせ、さらに導入後も改善を繰り返して、ようやく実現できる。そうした真のDXの推進には、単なるデジタル化ではダメだと気付き、そこに危機感を持つ必要がある。

 今回の調査結果から、多くの企業は今のところ、IT人材といってもボリュームゾーンの実務担当者を求めており、デジタル化の域を出ないようだ。

 次に、パート1でも紹介したDXに関する24項目の取り組みについて、回答者の年収とのクロス集計を実施した。全体の平均年収である550万円を境に、それ以上と未満の2グループに分類。24項目の取り組みを実践しているかを尋ね、「そう思う」「ある程度そう思う」と回答した割合を「ポジティブ度」として算出した。

図 年収別の、DX施策の実施状況
図 年収別の、DX施策の実施状況
年収による差が大きかったのは、提案や説明など個人主体の取り組み
[画像のクリックで拡大表示]

 2つのグループの差が大きかった項目は「会社方針に基づくDXの具体策の提案」「ステークホルダーへの説明と理解獲得」「自社・自部門の課題特定と施策提案」、差が小さかった項目は「ビジネスチャットなどの積極活用」「多様な社員・働き方を認める施策の導入」「ITツールを使った社内外との情報共有」となった。

 年収550万以上と未満の行動の差が大きかった項目の共通点は、「提案している」「説明し理解を得ている」など個人の主体的な行動であることだ。逆に、ツール利用など個人の主体性と関係ない項目は差が小さい。年収550万円以上のグループには、主体的にリーダーシップを執る人が多そうだ。